『パラサイト』はなぜオスカーを受賞できたのか? 日本映画にはなかった韓国の“長期的視点”

『パラサイト』はなぜオスカーを受賞できたのか? 日本映画にはなかった韓国の“長期的視点”

  韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞を含む4部門を制するという歴史的偉業で幕を閉じた第92回アカデミー賞。非英語圏の資本で作られた完全外国語作品としては史上初めての作品賞であり、アジア人による監督賞受賞はアン・リー以来で、米国資本が入らない作品では史上初。英語以外の作品が脚本賞を受賞するのは17年ぶりと、まさに異例尽くし。このようなアカデミー賞の歴史を塗り替える“事件”の素晴らしさで若干霞んでしまってはいるが、本作が国際長編映画賞(以前の外国語映画賞)も受賞しているということを忘れてはならない。

ポン・ジュノ監督 Blaine Ohigashi/(c)A.M.P.A.S.

 アカデミー賞自体がアメリカ映画界の賞であるが故、もちろん韓国映画がその主要部門で牙城を崩したことはこの上ないほどの価値がある。けれどもこれまで多くの韓国映画の名作や傑作たちが、エントリーしてもノミネートはおろかショートリストにすら加えられなかった(昨年の『バーニング 劇場版』が初めてショートリストまで駒を進めたが)外国語映画賞・国際長編映画賞こそ、もともと韓国映画界が長年目標としてきた場所だ。シン・サンオク、ユ・ヒョンモク、イム・グォンテク、そしてイ・チャンドンなどなど。偉大なる先人たちが成し得なかった悲願を背負い、それをポン・ジュノはしっかりと成就させたのである。

喜びをあらわにする『パラサイト 半地下の家族』キャスト一同 Blaine Ohigashi/(c)A.M.P.A.S.

 それ故、今回の授賞式で実に4度も壇上に上がったポン・ジュノのスピーチにもその意識が表れているように見える。1度目の脚本賞ではごくシンプルに韓国映画初のオスカーという快挙への喜びが中心となったが、2度目の国際長編映画賞の際には賞の名称変更によって生まれた新たな方向性に感謝を示した上で、キャストやスタッフたちの名前を呼ぶ。必然的に会場全体が彼らの功績を称え、保守的だと言われ続けたアカデミー賞により大きな変革が必要だというムードになると同時に、長年韓国映画界が目指してきたハリウッドとの壁が取り去られたことをまざまざと証明する。大願成就と呼ぶにふさわしい賞を得ながらも、韓国映画界の勢いはここで終わりではないのだという、強い意気込みさえもそこには垣間見られるのだ。もちろんこの時点で作品賞の結果は発表されずとも決まっていたとはいえ、誰もが今年は『パラサイト』の年になると確信せざるを得なくなった瞬間であろう。

『パラサイト 半地下の家族』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 ちなみに3度目の登壇となった監督賞では自身の作家としての根幹に触れながらマーティン・スコセッシとクエンティン・タランティーノの2人の映画界の先人を立てながら他の候補者への敬意も表明。4度目の作品賞の際には自身も受賞者の1人であれど、クァク・シネ(有色人種の女性プロデューサーとして初めての作品賞という点も見逃せない)にスピーチを委ね、自身は少し端のほうで控えめにたたずむ。ここまできれいに棲み分けが為されたスピーチから考えるに、きっとポン・ジュノ自身も何度も名前を呼ばれることを想定していたに違いない。その自信と向上心があるからこそ、これほどまでに面白い映画が生み出せるのではないだろうか。

『パラサイト 半地下の家族』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 ところで、今回の受賞結果を受けて日本国内では日本映画の現状を悲観する声が相次いだことに触れないわけにはいかない。すでに昨今近隣諸国へ対しての政治的な対立から波及した劣等感にも似た反発が、映画にとどまらずカルチャー全体に蔓延しているわけだが、まず今回『パラサイト』がハリウッドの大作と真っ向から競り合って勝利をもぎ取ったことからも、日本映画と韓国映画にそう簡単に超えられない大きな差がついてしまったことは残念ながら明白だ。日本映画とアカデミー賞の関係は韓国映画よりも古く、50年代や60年代には外国語映画賞の主要国のひとつとして存在し、その後、勅使河原宏と黒澤明が監督賞にノミネート。アメリカ映画にスタッフとして携わった日本人が賞を受けるケースは何度かあったが、作品そのものの評価に関していえば『おくりびと』が2008年に外国語映画賞を受賞し、昨年『万引き家族』が同部門に候補入りする以外は、頼みの綱のアニメーション部門に特化し、実写映画に関してはこれまでの韓国映画と同様に外国語映画賞がひとつの目標になっているのである。

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