漫画の神様・手塚治虫はなぜ戦争を描き続けたのか? NHKドラマ『手塚治虫の戦争』放送を機に考える

漫画の神様・手塚治虫。その創作の原点は、自身の戦争体験にあった――。2026年8月12日(水)22時より、NHK総合・BSP4Kにて、特集ドラマ『手塚治虫の戦争』が放送される。
物語の舞台はふたつ。ひとつは、1970年代の東京。当時、手塚治虫(演・高良健吾)は、自身の会社の倒産や、連載の打ち切りなど、漫画家人生最大のピンチに直面していた。「手塚治虫は終わった」などと、心ない漫画ファンたちからいわれていたのもこの頃のことである。
そして、もうひとつの舞台は、1945年の大阪。こちらの主人公は、手塚治虫の分身ともいうべきキャラクター、大寒鉄郎(演・原田琥之佑)。いつ死ぬとも知れない戦時下で、漫画を描くことに情熱を燃やしている16歳の少年だ。
1970年代の手塚は、過去の記憶に触れながら、激しく葛藤する。低迷しているいまの自分に何が描けるのか。果たして漫画で戦争を描くことに意味はあるのか……。
手塚治虫と大寒鉄郎。人生をかけて漫画を描いたふたりの物語が、時代を越えて交じり合ったとき、ついに手塚治虫の本能が目を覚ます――。
原作は手塚治虫の自伝的作品
ちなみに、1945年の大阪パートの原作は、手塚治虫の短編「ゴッドファーザーの息子」(1973年「別冊少年ジャンプ」掲載)と、「紙の砦」(1974年「週刊少年キング」掲載)である。いずれも自伝的な物語だが(前者では、番長・明石との友情が、後者では、オペラ歌手志望の少女・京子との出会いが描かれる)、この他にも、手塚治虫は自身の若き日々の戦争体験を、生涯にわたり描き続けた(その主な作品は、講談社「手塚治虫文庫全集」の『ゴッドファーザーの息子』などで読むことができる)。
さらにいえば、初期の『来るべき世界』から、晩年の『アドルフに告ぐ』にいたるまで、手塚治虫の代表作は、ほとんどすべてが「戦争の漫画」だった、といえなくもない(たとえば、ブラック・ジャックの“最初の入院患者”が、原爆症の男性だったということをご存じだろうか)。
戦争の悲劇を忘れないために
それにしても、だ。手塚はなぜ、繰り返し「戦争」を描いたのか。
その答えは、彼の遺作のひとつになった随筆集『ガラスの地球を救え』(1989年)に書かれている。
戦後四十余年が過ぎ、だんだん戦争の忌まわしさを伝える人間がいなくなりつつあります。
当時の状況を体験として、つぶさに知っている人間は、若い人たち、子どもたちに“戦争”のほんとうの姿を語り伝えていかなくては、また再び、きな臭いことになりそうだと、ぼくは不安を抱いています。
“正義”の名のもとに、国家権力によって人々の上に振りおろされた凶刃を、ぼくの目の黒いうちに記録しておきたいと願って書いたのが『アドルフに告ぐ』なのです。
~『ガラスの地球を救え―二十一世紀の君たちへ』手塚治虫(光文社)より~
再び「きな臭いことになりそう」ないま、自分の「目の黒いうち」に、「若い人たち、子どもたちに“戦争”のほんとうの姿を語り伝え」なければならない。この手塚治虫の強い想いは、田中角栄の、「戦争を知っている世代が社会の中核にある間はいいが、戦争を知らない世代ばかりになると日本は怖いことになる」という有名な言葉にも通じるものがあるだろう。
そう、なぜ、いま、NHKが『手塚治虫の戦争』というドラマを放送しようとしているのか。その意味をよく考えながら、(特に若い人たちは)今晩放送されるドラマを観ていただきたいと思う。あらためていうまでもなく、戦争とは、多くの若者たちの夢を奪うものにほかならないからだ。

【参考】
『田中角栄100の言葉―日本人に贈る人生と仕事の心得』別冊宝島編集部編(宝島社)
■放送情報
特集ドラマ
『手塚治虫の戦争』
NHK総合にて、8月12日(水)22時~23時13分放送
主演:高良健吾、原田琥之佑
原作:手塚治虫『紙の砦』『ゴッドファーザーの息子』
作:桑原亮子
制作統括:福岡利武
プロデューサー:田島彰洋
演出:鈴木航
制作:NHK大阪放送局
写真提供=NHK





















