30万人の腰をラクにした“仙骨枕”の誕生秘話とは? 背骨コンディショニング創始者・日野秀彦インタビュー

“仙骨枕”の誕生秘話とは?
『動画で分かりやすい! 寝るだけで30万人の腰がラクになった 仙骨枕つき背骨コンディショニング』(宝島社)

「30万人の腰がラクになった!」とうたわれ、発売から10年、ずっと支持を集めてきた“仙骨枕”というアイテム付きの本をご存知だろうか。

 2016年に刊行された、仙骨枕を付録にしたムック本『寝るだけで腰痛が消える! 仙骨枕つき背骨コンディショニング』(宝島社)は、腰や身体の不調に悩む人たちの口コミで広がったことを皮切りに、幾度も版を重ねて、今や累計17万部の隠れたベストセラーとなっているのである。そんなシリーズの最新版『動画で分かりやすい! 寝るだけで30万人の腰がラクになった 仙骨枕つき背骨コンディショニング』が9月3日に登場した。

 本シリーズの鍵となるのは、身体の土台である「仙骨」に着目した独自のアプローチ「背骨コンディショニング」。付録となる仙骨枕の愛用者には、世界を舞台に活躍するトップアスリートをはじめ、著名人も多くいるという。なぜこれほど多くの人に支持されてきたのか。その誕生の背景から、最新版に込めた思いまで、背骨コンディショニング創始者の日野秀彦氏に聞いた。

仙骨は動く――既存の考え方とは違うところから始まったアプローチ

日野秀彦
日野秀彦氏

――仙骨枕つきのムック本が最初に出たのが2016年。およそ10年になりますが、これまでどんな反響が届いていますか。

日野秀彦(以下、日野): まず多いのは、やはり「やってみたら身体のバランスが変わった」「姿勢を意識しやすくなった」という声ですね。それから「どこへ行ってもスッキリしなかった身体・症状が、セルフケアで手応えを感じられるようになった」という声も多いです。体を動かすのも辛かった方が、仙骨枕を使って身体の変化を実感されたという声が直接届いています。

 この10年でありがたいなと思うのは、健康維持に関心のある医療関係者にも背骨コンディショニングの考え方が広がっていったことです。僕がやっていることは、一般的な医学の考え方とは出発点が違います。仙骨という骨は、かつての解剖学では「動かない」、あるいは動いてもごくわずかだとされてきて、それが医学や整体の分野では議論になっていました。でも僕の経験からすると、ちゃんと「仙骨は動く(※)」んです。

※本記事では、仙骨と腸骨をつなぐ「仙腸関節」の動きを、読者に分かりやすく「仙骨の動き」「仙骨は動く」と表現しています。

 現代医学を批判するつもりはありません。しかし、増え続ける体の悩みに応えるなかで、僕自身が多くの現場を重ね、「動く」と実感してきた。そして仙骨が動いたときに身体にどういう変化が起こるのか、神経にどう影響するのか。そこを自分なりに考え、実践してきました。

――そもそも「仙骨は動く」と考えるようになったのは、何がきっかけだったのでしょう。

日野: 話すと長いんですけどね(笑)。僕は若い頃、北海道でロックンロールバンドをやっていたんです。喧嘩とバイクとロック三昧で、保護司がついているような人間でした。18歳の時に、その保護司の方からのすすめでスポーツクラブのアルバイトを始めたんです。そのうちチーマーブームが到来して、チーム同士の抗争に巻き込まれるようになりました。これは「やられない身体をつくらなきゃ」と、ものすごくトレーニングをしたんです。筋トレだけじゃなく、解剖学や機能解剖学、トレーニング理論、運動生理学も勉強しました。言ってしまえば、やっつけられないために勉強した(笑)。

 でも、そうした勉強ぶりが認められて、今度はスポーツクラブの運営会社に引き抜かれました。そこで、日本では初めての「フィットネスディレクター」というチームで仕事をすることになったんです。集まっていたのは、一流大学の運動生理学名誉教授をはじめ、トレーニング理論や機能解剖学の専門家、西洋医学・東洋医学の医師、カイロプラクティックなど、いろいろな分野の人たちでした。一方で僕は単なるチーマーですから。「なんでこんなところにいるんだろう」と自分でも不思議に思っていました。

――まるで漫画のような展開ですね。

日野: 自分でもそう思います(笑)。でも、フィットネスディレクターとして身体と運動について学び、実践し、運動プログラムを創出していったことが、現在の「背骨コンディショニング」が生まれるきっかけになりました。

 もう一つ、背骨コンディショニングにつながる大きなヒントの一つとなったのが、新約聖書のマルコによる福音書16章18節にある、「病人に手を置けば治る」という言葉です。私はクリスチャンなのですが、スポーツクラブから独立をしてしばらくした頃に、新約聖書に倣って「腰が辛くてスムーズに歩けない」という人の身体に手を置いたときに、仙骨が動くような感覚があったんです。そのあとに「身体が楽になった」「腰の痛みが良くなった」と言われる。そういう経験が何度も続いたんですね。それを繰り返しながら、少しずつ力を加える方法なども考えて、今の矯正のスタイルになっていきました。

痛みのある場所だけではなく、土台となる仙骨を見る

日野秀彦

――世の中には腰や背中のケア向けストレッチや運動がたくさんあります。その中で、先生の方法との違いを一言で言うと何でしょう。

日野: 仙骨を重視しているかどうか。それだけです。身体の構造を考えれば、仙骨は上半身と下半身をつなぐ唯一の骨で、非常に重要な体の中心の骨です。僕からすると、そんな大事な土台の骨を「不動」と言って見ないことのほうが不思議なんです。僕は、土台である仙骨の位置がズレれば、その上の骨もズレると考えています。仙骨のズレによる代償姿勢なのに、崩れた先だけを見て「ここが曲がっています」「ここが狭くなっています」と考えるのではなく、まず土台から見てみる。それが僕の考え方です。

――そこまで仙骨が重要だと考えると、なぜこれまであまり注目されてこなかったのかという気持ちになります。

日野: そうなんです。ただ、仙骨を手技で動かすのは技術的には難しいんですよね。慣れている人なら話をしながらでもできますけど、動かすには多くの経験が必要です。背骨コンディショニングのインストラクターでも、かなり人数をこなして経験を積んだ人たちはできるようになっています。

――先生だけにしかできない特殊な技術、というわけではないんですね?

日野: はい。僕だけにしかできない技術というわけではありません。正しい方法を学び、経験を積むことで身につけていくことができます。ただ、難しいのは難しい。だから「動かない」と考えたくなるのも、わからなくはないんです。でも、仙骨枕のような道具を使って、自分でアプローチすることも可能です。

――その考えから、仙骨枕が生まれたのでしょうか。

日野: そうです。最初のころはタオルを丸めて、仙骨の下に入れてアプローチする方法をレクチャーしていたんですよ。すると、参加者のみなさんが自分たちでいろいろ工夫し始めた。ピンポン玉を使う人、テニスボールを使う人、ゴルフボールを使う人まで出てきて。最後にはワインの瓶を使う人まで出てきたんです(笑)。さすがに「これは危ない」と思いましたよ。割れたら大変でしょう? それなら、安全に使えるものをちゃんとつくらなきゃいけない。それが仙骨枕をつくろうと思った最初のきっかけです。

仙骨枕
付録となる「仙骨枕」。仙骨に当てる以外にもさまざまな活用法がある。

――ワインの瓶! それは硬いもののほうが、効いている感じがしたんでしょうか。

日野: たぶん、しっかり骨に当たる感じがあったんでしょうね。ただし、「痛いほどやればいい」ということでは絶対にないです。痛みを我慢するほど強い刺激を加えると、身体には防御反応が起こります。伸張反射のような反射が働いて、かえって身体が緊張してしまうことがある。だから仙骨枕も、痛いところまでやらない。これは絶対に気をつけてほしいことの一つです。

――腰の不調や姿勢の悩みを抱える人は、男女差や年齢差はありますか。

日野: 性別はあまり関係ないと思います。年齢についても、「年を取ったから不調になる」と単純に考えることはできないですよね。年を取った人が全員不調になるわけじゃないですから。僕が大事だと思っているのは、仙骨や背骨を支える筋肉があるかどうかです。骨と骨は靱帯などでつながっていますが、姿勢を支えるために働くのは筋肉です。支える筋肉が弱かったり、筋力のバランスが崩れたりすれば、姿勢にも影響が出てくる。だから僕は、アプローチだけではなく筋肉まで含めて考える必要があると思っています。

――先生のところには、トップアスリートの方も来られるそうですね。

日野: はい。アスリートは競技のための筋肉はものすごく鍛えています。でも、「その競技で直接使う筋肉」と「姿勢を支える筋肉」は別なんですよ。例えば速い球を投げるため、速く走るために必要な筋肉は当然鍛える。でも、仙骨や仙骨がズレて起こる代償姿勢を防ぐ筋肉まで、十分にトレーニングできているとは限らない。だから、不調が出る。でも、多くの場合、症状の出ているところだけをケアしようとしてしまうんですよね。僕のところに来るアスリートを見ていても、そこに課題があると感じます。

最新版では「1か月トライ」で習慣化をサポート

日野秀彦

――一般の人が身体のバランスを崩しやすい生活習慣というと、やはり座りっぱなしやパソコンでしょうか。

日野: 大きいと思いますね。昔は、こんなふうに長時間パソコンに向かって身体を丸めるような生活はなかったと思うんです。座っているときは仙骨に負担がかかると僕は考えています。だから「この姿勢を絶対にするな」と言うのではなく、その姿勢に負けない筋肉をつけることが大事なんです。よく「足を組んではいけない」とも言われますけど、僕はそこだけ直しても仕方がないと思っています。そもそも身体のバランスが崩れているから、足を組んだほうが楽になってしまっているんです。だったら「足を組むな」と言うだけでは根本的な話にならない。組まなくても身体を支えられる筋肉をつける。そのほうを考えるべきだと思います。

 また、自分の体重に対してどの程度の負荷に耐えられるかを考える必要があります。普通に立って身体を支えるだけならある程度でいい。でも、支える力が足りないのに、仕事や家事、育児でそれ以上の負荷を毎日かけている。そう考えれば、身体のバランスが崩れていくのも当たり前だと思うんです。

本書では、仙骨枕の使い方がわかりやすく丁寧に解説されている。

――今回の本には動画特典もあるそうですね。YouTubeに公開されているものとは違うのでしょうか。

日野: 今回の本を買った人だけが見られる動画になっています。YouTubeでも部分的に紹介している内容はありますが、それを一つの流れとして取り組める動画や、自律神経に関する内容など、今回の本だけのものを用意しています。

 もう一つ大きいのが、「1か月トライ」です。どうしたら運動を習慣化できるかを考えて、1週目、2週目と段階を踏んで取り組めるようにしています。僕がずっと言っているのは、「緩める」「整える」「筋トレする」の3つです。体操で身体を緩める。仙骨枕などで位置を整える。そして最後に筋トレをする。

 いきなり筋トレから始めるのは大変なので、まず身体を緩めるところから始める。そして整えるステップを加えて、最終的には最低限必要な筋トレまで持っていく。緩めて整えるだけでも、身体が楽になったと感じる人はいます。でも、支える筋肉がなければまた戻ってしまう。だから最後は、やっぱり筋トレなんです。

――仙骨枕を使ったケアや筋トレを習慣にするコツはありますか。

日野: 時間と曜日を決めることですね。「時間があったらやる」だと、なかなかやらないですよ。例えば月曜と木曜は必ずやるとか、ゴミを出したあとにやるとか。そこまで具体的に生活の中に組み込んでしまう。ゴミの日って忘れないでしょう。それと同じくらい習慣にしてしまうんです。

――ゴミ出しと同じように、筋トレの日をつくる。

日野: そう。あとは毎日水汲みに行くかですね(笑)。昔の、電気もない時代の生活を考えたら、朝起きて水を汲みに行ったり、身体を使うことが生活そのものだったでしょう。今でも、生活の中で重い水を運んで長い距離を歩くような地域があります。そういう生活をしていたら、わざわざ筋トレする必要はないですよね。生活そのものがトレーニングだから。でも現代の日本ではそれがない。だったら水汲みか筋トレか、どっちかです(笑)。

――とはいえ、状態によっては医療機関での治療や手術が必要になることもありますよね。

日野: もちろんです。僕が本当に伝えたいのは、何でも運動やセルフケアだけで解決しようということではありません。医療で治療すべきものがある。手術が必要なものもある。そして運動やセルフケアで改善を目指せるものもある。その見極めをすることが大事です。医療の手が必要な方はしっかり受けるべきです。でも、日常のケアで自分の身体を支える選択肢があることも知ってほしい。どこへ行っても変化を感じられなかった、諦めかけていたというときに、「自分で身体を整えるこういう選択肢もある」と知ってもらえたらと思っています。

目標は「自分で健康を守る習慣の普及」。そして世界へ

日野秀彦

――今後、先生ご自身の夢や目標を教えてください。

日野: 自分の力で健康な身体を維持できる人を増やしたいんです。身体に大きな負担のかかる処置や手術に至る前に、自分自身で予防・ケアできる術を持つことが大事です。自分で身体を管理できるようになれば生活の質も上がります。

 僕は、背骨コンディショニングの運動やケアによって「自分の足で元気に歩けるようになった」「毎日の生活が楽になった」という声をたくさん集めています。インストラクターが増え、こうしたセルフケアの習慣が日本全国に広がれば、結果として社会全体での医療費負担を大きく軽減することにもつながるはずです。背骨コンディショニングのインストラクターが日本で3,000人(現在は約900名)輩出されると、日本の医療費1兆円削減できる試算です。それが僕の目標です。

――普通の会社なら売上目標ですが、「削減」目標なんですね。

日野: そうです(笑)。でも僕は、夢物語ではないと思っているんです。今もインストラクターが全国にいますし、海外にも少しずつ広がっています。台湾では養成講座をやっていますし、ヨーロッパにも広がってきています。人種が違っても、骨格の基本構造は共通していますから、世界中に広めていきたいですね。

――まずは今回の本を手に取った人に、実際に試してもらうところから。

日野: そうですね。まずは、騙されたと思ってやってみて、「騙されてください」と(笑)。筋トレは面倒だし、きついし、すぐに効果が見えにくい。三拍子そろっているから、みんなやりたくないんですよ。だからこそ、まず1か月。本の通りにやってみてほしい。その先も1か月、また1か月と続けて、まずは3か月を一つの目標にしてほしい。そこまで続けることで、生活の中に組み込みやすくなってきます。

――歯磨きやゴミ出しと同じように、健康に生きていくための習慣にする。

日野: そうそう。何か毎日やっていることに、一連の動きをくっつけるといいと思います。身体を緩める。整える。そして筋肉をつける。それを特別なことではなく、生活の一部にしてもらえたらと思っています。

■書誌情報
『動画で分かりやすい! 寝るだけで30万人の腰がラクになった 仙骨枕つき背骨コンディショニング』
監修:日野秀彦
価格:2,992円
発売日:2026年9月3日
出版社:宝島社

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