『スター・ウォーズ』は「かわいい」が苦手? 『マンダロリアン・アンド・グローグー』ブームの理由とは

Amazonベストセラー漂流記
9月17日のAmazon売れ筋ランキング「本」部門で6位にランクインしていたのが、『まるごとシールブックDX マンダロリアン・アンド・グローグー キラキラシールブック』(9月30日発売、小学館)である。映画『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』に登場したキャラクターのシールが、合計217枚も収録された一冊だ。
マニア向け配信ドラマがなぜ社会現象になったのか

2019年に配信されたドラマ版から見続けてきた身としては、「まさか配信開始から7年近く経過した今、『マンダロリアン』がこういうウケ方をするとは……」という気持ちである。それくらい今年5月からの『マンダロリアン・アンド・グローグー』の、SNSを中心とした盛り上がりは凄まじかった。
ドラマ版『マンダロリアン』は、そもそも配信サービス「ディズニー+」のスタートに合わせて作られたキラータイトルである。ルーカスフィルムがディズニーによって買収されて以降、『スター・ウォーズ』関連作は連綿と作られてきた。その流れに連なる作品ではあるが「映画ではない連続配信ドラマ」「スカイウォーカーの血筋に関する物語ではなく、シリーズの主要キャラクターも登場しない、銀河の辺境に広がるアウトローの世界を題材にした作品」だった『マンダロリアン』は、正直かなりマニア向けだったと言っていい。マスを相手にした劇場公開作品よりもニッチでマニアックなネタを扱える、配信ドラマならではの強みを活かした作品だったのである。
舞台は反乱軍によって帝国が打倒された後の銀河。主人公はあのボバ・フェットと似た装甲服を着たマンダロアの賞金稼ぎ。畏怖と侮蔑がないまぜになった「マンドー」という呼び名で呼ばれる彼は、とあるターゲットの回収を依頼される。危険を乗り越えてマンドーが回収したターゲットは、ヨーダと同じ種族で年齢50歳の赤ん坊だった……。そんな魅力的な導入で始まった『マンダロリアン』は、西部劇っぽい回や『七人の侍』まんまの回など、毎回趣向を変えつつ『スター・ウォーズ』の世界を深掘りしていった。
わけてもマンドーことディン・ジャリンがベビー・ヨーダことグローグーに孤児だった自分の姿を重ね、親子の情に近いものを育んでいくプロセスは非常に丁寧に描かれていた。「宇宙子連れ狼」のような物語は、間にボバ・フェットを主役としたドラマ『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』も挟みつつ、3シーズンにわたって続き、そして開始から6年以上が経過して、ついに映画化されたわけである。
シーズン1から見ていた身としては、グローグーがキュートでちょっとキモいのはよく知っていたのだが、まさかそれがここまで爆発するとは思わなかった。だってアナタ、どんだけかわいいっつったって、『スター・ウォーズ』のキャラですよ? 『新たなる希望』公開からもうすぐ50年、実際のところシリーズのファンのコア層は中年以上の年齢と言っていいはず。それがまさか、SNSにファンアートが溢れ、グローグーが「グーちゃん」呼びされ、フィギュアでもプラモデルでもなく「可愛いイラストが収録されたシールブック」という、今まで『スター・ウォーズ』では見たこともないような商品がAmazonの売れ筋ランキング上位に食い込むとは……。『マンダロリアン』という作品の多面的な魅力を、まだ自分はよくわかっていなかったのではないかと軽く反省している。
思えば、『スター・ウォーズ』の歴史は「かわいいもの」への挑戦の歴史でもあった(というのは言い過ぎかもしれないですけども)。シリーズのアイコン的なキャラクターとしてはC-3POとR2-D2という不動のコンビがいるのだが、彼らはドロイドであり、小動物・赤ちゃん的なキュートさとはちょっとテイストが違う。ヨーダは老人だし、どれだけデフォルメされたとしてもストームトルーパーは悪の帝国の精鋭部隊である。もともと『スター・ウォーズ』は、かわいいキャラとは無縁だったのだ。
しかし『ジェダイの帰還』では、イウォークというキャラクターが登場した。コロコロと小さくて丸っこい小熊のような生き物で、石や木の枝でできた原始的な武器を持っている。見た目はぬいぐるみがそのまま歩いているような感じで、これはおそらくエイリアンやクリーチャーばかり登場する『スター・ウォーズ』シリーズで、初めて明確に「子供達にも愛されるような、キュート方向のキャラクターを目指そう!」という狙いで作られたキャラクターだったのではないか……と自分は思っている。
イウォークからジャー・ジャー・ビンクスまで。「可愛いキャラ」受難の歴史
しかし(これはファンの悪ノリという理由もあるのだが)、イウォークから漂うどことなく子供騙しっぽい匂いや、最新兵器で武装した帝国軍を岩や丸太で粉砕してしまうという劇中の活躍ぶりへの疑問、いきなりぬいぐるみみたいなキャラクターが登場した違和感、ルークら主人公一行を火炙りにして食べようとした意外な残忍さなどの理由からか、イウォークは長らくマニアから嫌われる結果となってしまった。初登場から40年以上が経過した現在になってようやく「許された」ムードが漂ってはいるものの、一時期のイウォークの嫌われ方といえば、それはもう凄まじかったのである。
以降も『スター・ウォーズ』において、キュートさでブレイクしたキャラクターはほぼいなかったと言っていい。『ファントム・メナス』のジャー・ジャー・ビンクスはイウォークに勝るとも劣らぬ嫌われぶりだったし(これにもファンの悪ノリという側面が多分にあるが)、シークエルに登場したBB-8はキュートなアイコンとしての活躍を期待されていたはずだが、現在までグッズが売れ続けるような強烈な人気をゲットしたかと言われるとそうでもない。同じくシークエルに登場したクリーチャーの「ポーグ」もキュート枠ではあったが、ちょっと見た目があざとすぎる上に「丸焼きにされて食われる」という劇中での扱いもかわいい系のキャラとしてはちょっと……というものだった。「可愛いキャラクターをあれこれ試すが、イマイチしっかりウケない」というのは、『スター・ウォーズ』あるあるだったのである。
しかしグローグーは違った。映画公開からほどなくしてSNSには「グーちゃん」のファンアートが溢れ、パペット然とした動きのかわいさや「なんでも平気で食べる」という微妙なキモさに誰もがハートを鷲掴みにされた。グローグーは『スター・ウォーズ』の歴史上初めて、キュートさのパワーでファン以外へも浸透したキャラクターとなったのである。これは日本での受容の話であり、アメリカなどではまた違うのかもしれないが、しかし話を日本国内に限ればまさに不可能を可能にしたキャラクターと言っていい。その証拠が、映画公開から4ヶ月近くが経過してもシールブックが売られ、それがAmazonの売れ筋ランキング上位に食い込んでいるという事態である。まさに前代未聞。もう一度書くが、『マンダロリアン・アンド・グローグー』自体は今年公開されたものとはいえ、『スター・ウォーズ』は約50年前に第一作が公開されたシリーズなのである。どえらいことなのだ、マジで。
この状況を見てしみじみ思うのは、配信ドラマという形式の難しさだ。前述のように、グローグー自体は2019年に登場したキャラクターである。ドラマ版では特にかわいくないということもなく、試聴したファンからはかなり好評だった。自分も、頭を撫でるとリアクションするグローグーの大型フィギュアを買ってしまったくらいだ。にも関わらず、配信開始以来の7年の間にここまでの盛り上がりを見ることはなく、映画が公開されてから堰を切ったようにネット上で騒がれることになった。
『マンダロリアン』のマニア向けっぽくてとっつきにくい感じや、すでに3シーズンも配信されている長大さなど、ここまでブレイクしなかった原因は色々とあるだろう。ディズニー+自体が入会するのにややこしいプロセスを必要とするところがあり、『マンダロリアン』を人に勧めてもなかなか見てもらえないこともあった。それに比べれば映画館に行くのはずっとハードルが低いし、『マンダロリアン・アンド・グローグー』は『マンダロリアン』のエッセンスを詰め込みつつ簡潔にまとまっていたので、ドラマ版未試聴でも楽しめた。これらの要因が重なったことで、配信開始から7年を経てのグローグー大ブレイクとなったのである。配信のみだったら絶対にこうはなっていなかったはず。ファンの枠の外への広がりという点では、サブスクサービス上での限定配信という形式が足枷になっていたのは否めない。
とにもかくにも、『マンダロリアン』がシールブックになって売れまくったり『anan』の表紙になるような事態はまったく想定しておらず、世の中の動きというのはオタクの想像を超えるものだな……と思った次第。ここまで上り詰める偉業を成し遂げたグローグーは、やはり『スター・ウォーズ』の歴史に残る偉大なキャラクターと言っていい。シリーズの続きが見られるのはいつになるかわからないが、それまでこの人気が持続することを祈るばかりである。
■書誌情報
『まるごとシールブックDX マンダロリアン・アンド・グローグー キラキラシールブック』
価格:990円
発売日:2026年9月30日
出版社:小学館

























