Snow Man・宮舘涼太は時代劇の新たな名脇役になるーー黒沢清監督『黒牢城』で見せた“武士の所作”

Snow Man・宮舘涼太『黒牢城』で見せた演技

米澤穂信原作映画で際立つ男性俳優たち

米澤穂信『黒牢城』(角川文庫)

 黒沢清監督の最新作『黒牢城』(2026)が、6月19日の公開からちょうど1ヶ月で興行収入10億円を突破した。興収10億は日本映画のヒットの目安であり、黒沢監督作としても一番売れた作品ということになる。原作は米澤穂信による同名推理小説。米澤の代表作である『インシテミル』も2010年に映画化され、興収12億を記録した。

『インシテミル』の監督は中田秀夫。黒沢監督とともに所謂Jホラーの旗手として名を馳せる巨匠監督だ。さらに米澤原作の『氷菓』も2017年に映画化され、黒沢の弟子にあたる安里麻里が監督を務めた。3作品ともホラー映画ではないが、節々にホラー的な演出が漲り、俳優たちの演技も静謐さの中にどこか風変わりな魅力を秘めていた。

『インシテミル』の大野拓朗、『氷菓』の主演俳優・山﨑賢人、そして『黒牢城』の宮舘涼太といった男性俳優たちは、同じ原作者の映画化作品で、ホラーというジャンルが共通する名監督たちの薫陶を受ける形で画面上に際立つ。大野は冒頭場面の怪しい雰囲気漂うリムジン内で孤高の存在感を放ち、山﨑は無言の表情こそ雄弁に華やぐことを示した。宮舘は頭から爪先まで非の打ち所がない佇まいだ。

日本映画の三か条を託された宮舘涼太

『黒牢城』の宮舘は黒沢組初参加となったが、驚くべきことにまるで常連俳優であったかのように、あまりにも自然に黒沢作品に溶け込んでいる。いや、溶け込み過ぎている。公開日の1ヶ月前、本作は第79回カンヌ国際映画祭でプレミア上映された。カンヌは常に黒沢監督と作品への賛辞を送ってきた映画祭だ。

 現地フォトコールでは、宮舘が華麗なターンやポーズを決め、大きな話題になった。Snow Manのエレガンス担当として「舘様」の愛称がある宮舘は、黒沢作品と縁が深いカンヌ映画祭も独壇場にしてしまえるのだ。宮舘涼太は圧倒的にキャラ立ちしている。それでいてさりげない。

 たとえば、彼には料理男子としての側面もあり、Snow Manの冠番組『それSnow Manにやらせて下さい』(TBS系、2023年10月13日放送回)では1400食分の学校給食を調理したが、作業服とマスク姿の調理人たちの中で一体誰が宮舘かよく分からない調理風景だったにもかかわらず、やはり華麗な手際はどうしても突出していた。黒沢監督がこの映像を参考に見たかはわからないが、こうした特性に注目したことは確かで、宮舘が演じた乾助三郎役からあの完璧な一挙手一投足が引き出された。その上で監督は、宮舘に日本映画の三か条を託した気がする。

時代劇の新たな名脇役として

 1スジ、2ヌケ、3ドウサ。これは日本映画の父・牧野省三が唱えた三か条である。スジは脚本、ヌケは撮影(画面に奥行を与える美術を入れてもいいだろう)、ドウサは演技を意味する。黎明期の日本映画は割りとシンプルな筋(プロット)を基本として、被写体となる俳優の動作(演技)を極めてシンプルに撮影していた。俳優の演技は純粋なモーションとして際立ち、時代劇のチャンバラ場面などでは俳優のムーブだけでダイナミックな躍動感を生み出していた。

『黒牢城』で初の時代劇に取り組んだ黒沢監督の念頭には、三か条の基本原則があったはずで、宮舘にも極めてシンプルな演技(動作)を求めている。基本的に黒沢監督も無駄のない演技を好むタイプの演出家であり、華麗であってもさりげない宮舘のスタイルがうまくハマった。宮舘の方でもかねてから時代劇出演を目標に掲げていて、2024年放送のドラマ『大奥』(フジテレビ系)で演じた松平定信役も実に無駄がない所作が印象的だった。

 同作第1話、小芝風花演じるヒロインとの会話場面で高床と庭の間の階段に座る時、宮舘は座るという動作を格式ある武士の所作として徹底的に極めていた。宮舘の持ち味は武士の所作とよく合うのだ。『黒牢城』の助三郎役も廊下をサササッと歩いてきたり、本木雅弘演じる主人公・荒木村重に駆け寄る俊敏な動作で貫徹している。主君である村重に付き従い、最終的にどこまでもお伴しようとするラスト場面は、本作最大の原作改編ポイントだが、そこには黒沢監督特有のロングショットに溶け込む宮舘のさりげない白眉が宿っている。『大奥』のスピンオフ作品『大奥~定信の恋~』(FOD、2024)では単独初主演を果たしたが、『黒牢城』によって宮舘涼太は、時代劇の新たな名脇役としてのポジションを得たのだ。

■公開情報
『黒牢城』
全国公開中
出演:本木雅弘、菅田将暉、吉高由里子、青木崇高、宮舘涼太、柄本佑、ユースケ・サンタマリア、吉原光夫、坂東龍汰、近藤芳正、矢柴俊博、木原勝利、河内大和、吉岡睦雄、上川周作、前田旺志郎、坂東新悟、荒川良々、渋川清彦、渡辺いっけい、オダギリジョー
監督・脚本:黒沢清
原作:米澤穂信『黒牢城』(角川文庫/KADOKAWA刊)
音楽:半野喜弘
配給:松竹
©米澤穂信/KADOKAWA ©2026 映画「黒牢城」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/kokurojo-movie/
公式X(旧Twitter):https://x.com/kokurojo_movie

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