小説家・水縞しまが語る、人と人の「心地よい距離感」 『じんわり深夜の洋食店』インタビュー

うまく寝付けない夜、皆さんはどう過ごしているだろうか。眠れない人の数だけ色々な過ごし方がありそうだが、もし寝付くまでの時間を読書にあてるという人がいたら、おすすめしたいのが「ことのは文庫」より発売された、『じんわり深夜の洋食店 お見合い夫婦のおしながき』(著:水縞しま・イラスト:ゆうこ/マイクロマガジン社)。何せこの作品の舞台となるのは、様々な事情を抱えて夜に眠れない人々が集う、深夜にしか営業しない洋食店「モント・リヒト」。しかも店内には書架まであるという設定なので、本好きなら読みながら「こんなお店、実在するなら今すぐ行きたい!」となるだろう。
このお店の設定だけでも既に作品として心を惹かれるのだが、この物語のもうひとつの魅力となるのが、洋食店を営むお見合い結婚した夫婦である史緒と理人の関係性。物語が進むにつれて、ゆっくりと夫婦としての絆が深まっていくやさしさあふれる展開に、眠れずに焦っていた心がじんわりほぐされる人も多いはずだ。「深夜にだけ営業する洋食店」と「お見合い結婚した夫婦」という2つの要素を掛け合わせ、作品にするという発想は一体どのようにして生まれたのであろうか? 制作の背景を、著者の水縞しま氏に話を伺った。
お互いに踏み込みすぎない、登場人物たちの絶妙な距離感

(著:水縞しま・イラスト:ゆうこ/マイクロマガジン社)
ーー『じんわり深夜の洋食店』は、お見合い結婚した夫婦が営む、深夜にだけ営業する洋食店が舞台ですが、物語を構想された際に「お見合い結婚した夫婦」と「深夜にだけ営業する洋食店」の2つの要素は同時に思い浮かんだのでしょうか?
水縞しま(以下、水縞):ほぼ同時に思い浮かびました。オムライスやエビフライといった、王道のメニューを出す洋食店を舞台にした物語を書きたいと思っていたんです。でも普通の洋食店では面白くないので何か変化をつけようと考えていたところ、深夜営業というのを思いついたんです。お見合い結婚については、他人行儀な人物像が1人ずつ思い浮かび、そんな2人の関係性を発展させたいと思ったので、お見合い結婚をした夫婦という設定にしました。
ーーなぜ、その2つの要素を掛け合わせようと思ったのでしょう?
水縞:深夜に営業しているお店に来るお客さんがどういう人かと考えたとき、まず夜に眠れない人のイメージが思い浮かんだんです。そして、そういう人たちは繊細な性格の方が多く、あんまり相手に踏み込んでいかない、いろんな事情があるからこそ距離感を大事にする人たちかなと考えて。そうなったらお店の店長とかも同じような人たちがいいなとなり、お見合い結婚の距離感が思い浮かびました。
『じんわり深夜の洋食店』の前に「ことのは文庫」で出させていただいた『はたらくぽんぽこ神様』は、主人公があまり人と関わることが得意ではないものの、商売をするために積極的に人と関わっていこうとする話でしたが、今回の作品は思いやりがあるからこそ踏みとどまる関係性で描きました。仲良くなることだけが全てじゃないというか。
ーーお店にやってくるお客さんとの物語だけでも作品として成立しそうなのに、なぜ夫婦としての絆が深まっていく物語も並行して描こうと思ったのでしょうか?
水縞:やっぱり読者の方に主人公たちを好きになってもらいたかったので、そうするには2人のことを書く必要があって。あと2人を描くことで、感情移入をしてもらうときに物語の中に入ってもらいたいなと思って、あのような構成にしました。
ーー作中に登場するお店の常連さんたちも、例え仲良くなっても連絡先は交換しないなど、お互いに踏み込みすぎない関係性を保っていました。SNSなどで簡単に人同士が繋がれる現代に、なぜ「繋がりすぎない」関係性を描こうと考えたのでしょうか?
水縞:簡単に繋がれるということは、とても素晴らしいことだと思います。でも繊細なひとほど「繋がる」ことに身構えたり臆病になったりしてしまうのかなと想像していました。人ひとそれぞれ相手との心地よい距離感は違うということを表現したかったんです。

ーー登場人物たちの中には孤独を抱えている人もいますが、「モント・リヒト」にいる間はひとりで過ごす時間を大切にしています。水縞さんが考える「孤独」と「ひとり」の違いは何ですか? また、作中で「孤独」と「ひとり」を書き分ける上で意識されたことは何ですか?
水縞:「孤独」は、誰にも理解されていないと感じる心だと思います。世界から拒絶されているような気持ちになること。これは、複数人でいても感じることだと思います。
「ひとり」は、一人だけど孤独ではないとき。でも、さすがにずっとひとりだと飽きるのではないかと考えました。それで、作中で主人公が「ひとり」の状態に飽きる描写を入れました。
「食べたい」という気持ちから生まれる物語
ーー水縞さんの作品の特徴のひとつとして、作中で料理が作られていく様子の描写がすごく美味しそうというのがあります。なぜ登場人物が料理を食べたり味わったりする描写でなく、料理を作る描写に力を入れられているのでしょう?
水縞:読者の方に作中に出てくる料理を「美味しそう!」と思ってもらうには、もちろん登場人物が食べた時のリアクションも大事だと思います。でも作られる過程も描くことでより美味しそうに伝わるんじゃないかな、手間ひまかけて作られた料理にありつけた喜びを感じてもらえるのではないかな、と思って料理を作る描写を入れています。
ーーまるでレシピ本のように書き込まれていますが、実際に水縞さんも執筆する前に料理されるのでしょうか?
水縞:書く前に作り直すことはないんですけど、一度作ったのを思い出しつつ書きますね。今作に登場するカニクリームコロッケみたいな手の込んだ料理は普段あまり作らないんですけど、一時期けっこう作っていたときもありました。ただ、せっかちなのでオムライスはきれいに作れないですし、洋食を作るのは実はあまり得意ではないです(笑)。
ーー作った料理から物語を思いつくこともありますか?
水縞:今、食べたいものとか、「最近これ食べてないな」ってところから食べたい気持ちが大きくなって、そこから物語ができることが多いです。
ーー食欲が創作する上でのインスピレーションになっているんですね。
水縞:そうだと思います。自分はもともと小説を書いていなくて、過去に文章教室に通っていたんですけど、そこの先生に「小説を書いてみたら」とすすめられて書き始めたんです。でも最初は何を書いたら良いのかよく分からず、何なら書けるかなと考えたときに、食べるのが好きなのでグルメ小説なら書けるかなと思って書き始めたんです。ただ、グルメ小説を書いているときはすごくお腹が空きますね(笑)。
夜に読みたくなるような、やさしい物語
ーー作中でお店の書架に置いてある本は「全体的にやさしい物語が多い」という描写がありましたが、『じんわり深夜の洋食店』もやさしい物語になるよう意識されていたのでしょうか?
水縞:はい。自分の読書タイムが夜、仕事や身の回りのことを終わらせてから寝るまでの間が多いので、刺激が強いものよりはやさしい本のほうが合っていて。そういったこともあり、自分で書く物語もやさしいものになったのだと思います。
ーー水縞さんはもともと、装画をご担当されたゆうこさんのファンだと伺いました。今作の装画が出来上がったとき、どんな印象を受けましたか?
水縞:主人公の史緒がちょっと丸顔という設定なんですけど、その塩梅っていうんですかね、まさにちょっと丸顔だったのでうれしかったです。あと夜の洋食店って異世界じゃないですけど、日常とはかけ離れた場所かなと思っていたのですが、そんな「ちょっと違う世界に迷い込んだ」ような感じを装画から受けたので、イメージ通りで驚きました。自分は絵を描けないので、どうしたらこんなにぴったりなものを描けるのだろうと驚きが多いです。
ーー作品を読んだ方々からどんな反響があったら書き手としてはうれしいですか?
水縞:発売前の段階でNetGalleyさん(編注:書店員などが発売前の書籍をデジタルファイルで読んでレビューを投稿できるウェブツール)のレビューで、いくつかうれしいことを書いてくださっているので、実はもう結構満足してしまっている感じではあります。私は感想を書くのがすごく苦手で、本を読んで感想を書くってすごく大変なことだと感じているんですけど、自分の作品への感想をわざわざ書いてくださる方がいるんだなと思うと、すごくありがたく思います。
あと今作は、「ことのは文庫」の読者層である「オトナ女子」に向けて書いたつもりだったのですが、NetGalleyさんではたぶん男性の方が書いてくださったんだろうなという感想もあったので、見ていて嬉しかったですね。
ーー最後に読者へのメッセージをお願いします。
水縞:深夜営業の洋食店が舞台の、おいしいごはんと、お見合い夫婦の絆と、来店するお客様のエピソードを書きました。のんびりしていて、あたたかさを感じられる内容になったと思いますので、物語に浸っていただければと思います。

■書誌情報
『じんわり深夜の洋食店 お見合い夫婦のおしながき』
作者:水縞しま/イラスト:ゆうこ
定価:781円(税込)
出版社:マイクロマガジン社
特設サイト:https://kotonohabunko.jp/special/shinyanoyoushokuten/






















