和菓子は“言葉の代わり”になるーー和菓子職人・土屋タダヒロが『花も団子も』で再発見した原点

和菓子職人が小説『花も団子も』で再発見
『花も団子も 春呼ぶ和菓子と奈良の町』
(いのうええい/マイクロマガジン社)

 和菓子を題材にしながら、人とのつながりや気持ちの伝え方を描く小説『花も団子も』(著:いのうええい)。和菓子が誰かを励まし、言葉の代わりになる——そんな物語を、山形で店を営む傍ら、登録者数30万人を超えるYouTubeチャンネル「和菓子お兄さんの美味しいレシピ」を運営している和菓子職人の土屋タダヒロさんはどう読んだのか。

 2025年には家庭で和菓子を簡単に作るためのレシピ本『がんばらないずぼら和菓子』も上梓した土屋さん。作中の「技術はあとからついてくる」というセリフに共感した理由は。プロの和菓子職人として、一人の読者として何を感じたのか。本作の魅力を聞いた。(編集部)

職人が気づいた新たな和菓子の役割

──取材の最初にこんなことを伺うのは失礼かもしれませんが、そもそも今回の取材を引き受けてくださったのはどうしてだったのでしょうか?

土屋タダヒロ(以下、土屋):普段はあまり小説を読まないのですが、和菓子を題材にした小説というのは面白いと思いましたし、表紙のイラストがすごくかわいらしいなと思って「読んでみたいな」と思ったので、お受けしました。

──では実際に読んでみていかがでしたか?

土屋:和菓子を題材にはしているけど、和菓子だけじゃなくて、人とのつながりがメインのお話だなと思いました。特に、主人公の旭さんと有楽さんの関係が不思議だなと思いました。あとは、和菓子を通して気持ちを伝えるというのも、私は意識したことがなかったので面白かったです。

──新たな和菓子の役割を知ったというか。

土屋:そうですね。和菓子で励ますとか、そういうことはあまり考えたことがなかったので。もちろん人に贈ることはありますが、菓銘で人を励ましたりすることはなかったので新鮮でした。

──では逆に、和菓子職人だからこそ共感する部分や、わかると思ったところはありましたか?

土屋:セリフひとつひとつに共感しました。中でも「技術はあとからついてくる」というセリフはすごく響きましたね。私の個人的な考えとしては、和菓子を作る過程で一番大事なのは気持ちだと思っていて。まずはやりたいという気持ちがないと続かないですし、気持ちがないといい加減なものを作っちゃったりする。だからそこはすごく共感しました。

──すごく身も蓋もないことを伺いますが、やはり和菓子を習得するのは簡単ではないのでしょうか?

土屋:うわべの技術は学べたとしても、細かいところまで習得しようとすると大変です。例えば夏と冬では気温が全然違いますよね。私は東北に住んでいるので、夏は40度が近くて、冬は氷点下近く。白玉粉と水を混ぜるにしても、夏と冬で同じ分量だと同じように仕上がらない。そういうことも学んでいくと考えると、習得は簡単ではないのかなと思います。

──確かに気温や湿度は毎日違うのに、完成品は毎日同じでないといけないですもんね。

土屋:そうですね。だから配合通り作るというよりは、状態を見ながら作るという感じなんです。

──それにはやはり経験や鍛錬が必要になってくるのでしょうか。

土屋:和菓子は一年はやらないと覚えられないと言われています。例えばまんじゅうを作れるようになるとします。作り方を学ぶという意味では3ヶ月もかからずに覚えられると思いますが、季節が変わるとまた配合が変わってしまう。まんじゅうを作るときに、生地が垂れて、下に皮が溜まってしまう状態のことを「袴を履く」と言うのですが、季節が変わると同じように作っていても袴を履いてしまう。どうして袴を履いたのか理解して、いつ作っても袴を履かないようになるには、一年必要になるんです。それはまんじゅうに限らず、すべてのお菓子で言えること。それをすべて覚えるのはかなり大変です。

──確かに大変そうですね。でも、そうやって極めていく工程が、大変だけど面白さでもあるんでしょうね。

土屋:そうですね。難しいからこそ、できたときの喜びは大きいです。

和菓子職人・土屋タダヒロ

やっぱり一番は食べた人の「美味しい」の声

──先ほど、旭と有楽の関係が不思議で面白かったと教えてくださいましたが、そのほかに、この作品のなかで特に印象的だった描写はありますか?

土屋:本作にはちょっとしたサスペンス要素もあると思うんですが、私は日常の些細な人の心の動きを読み取った本だなと感じていて。例えば、高崎様というお客様に、頼まれていた和菓子の代わりに水飴を渡すシーン。あれはお菓子屋さんの目線で言うと本当に信じられないこと。注文されているものを作らないで、水飴を渡すなんて、誕生日ケーキを予約していたのに「作っていないので水飴を」と言うようなもので。信じられないですよね(笑)。だけど、高崎様は水飴を持って帰って、子供の頃の思い出に浸る。そういう展開は面白いなと思いました。

──確かに同じ和菓子屋さんとしては信じられないですよね。

土屋:私のお店でしたら平謝りですね。逆にもっと怒られちゃうかもしれないですけど。あとは有楽のセリフの「おまえの人生に悲しむ奴が万人いたとして、そんなことは塵ほどの価値もないだろうが。そいつらに泣いてもらえば、おまえは幸せで、満足するのか」というセリフも印象に残りました。例えば、一般的にお葬式は集まっている人数が多ければ多いほど偉大だと言われますよね。だけど、有楽の考え方はその真逆。僕は「人にどう思われるかよりも、自分がどう生きたいかが大事」ということを伝えたかったのかなと受け取って、その考え方には衝撃を受けましたね。私は、有楽が優しい人かどうかとか、そういうことまでは読み取れなかったんですが、伝え方が面白い人だなと思いました。

──そもそも土屋さんが和菓子職人を目指したきっかけは何だったのでしょうか?

土屋:大人になってたまたま入った和菓子屋で、和菓子職人を募集していて。それをきっかけに和菓子職人になりたいなと思いました。その頃、絵本作家を目指して絵を描いていたんです。だけど挫折してしまって。和菓子の色彩や、形を作って表現するという部分は絵と通ずるところがあると思ったので、応募してみました。最初はなんとなくの気持ちでしたけど、徐々にその世界の深さに魅了されていきました。

──では実際に和菓子職人になった今、和菓子の魅力や、和菓子ができることはどんなことだと思いますか?

土屋:やはり日本の美しさや四季を伝えるというのは一番大きいですよね。今はインバウンドのお客さんもいるので、海外にも日本の魅力を伝えられることも魅力ですし。とはいえ、地元のお客さんに「おいしいよ」と言ってもらえることが一番うれしい瞬間なんですけどね。

──和菓子を通して人々を勇気づけたり、本音を引き出したりする様が描かれた本作。同じ和菓子職人として、土屋さんのお客様との印象的なエピソードを教えてください。

土屋:「桔梗」という紫色の花を模った和菓子があって。桔梗の花言葉は「永遠の愛」なんですね。よく来てくださるお客様が、今度金婚式をするというので、販売でなくサプライズで桔梗の練り切りを差し上げたら、ものすごく喜んでいただけたことがあります。もちろん見た目も美しいお菓子ですが、私があげたことに対しても喜んでいただけたので、尽くしてよかったなと思いました。そうやって喜んでくださる姿や満足した笑顔を見ると、私まで幸せな気持ちになりますね。

──しかも和菓子は、見てきれいだとか、もらってうれしいだけでなく、食べておいしいのも、うれしいポイントの一つですよね。

土屋:そうですね。お抹茶なんかと一緒に飲むと、洋菓子とはまた違う癒しがあるのかなと思います。

──作中で、旭と有楽はオリジナルのお菓子を作ります。和菓子は厳格なイメージがあるのですが、実際そういったオリジナル性は出せるものなのでしょうか?

土屋:はい。自分の表現したいものを表現できます。昔からの練り切りもあれば、例えば今年は午年なので、馬をモチーフにした練り切りを作ったりもしますし。創作性は広くあると思います。

和菓子の敷居を「低く」ではなく「近く」に

──土屋さんは『がんばらないずぼら和菓子』という和菓子のレシピ本を出されたり、和菓子の作り方を教えるYouTubeを開設したりしています。「和菓子を広めたい」「和菓子を身近に感じてほしい」という気持ちがあるのかなと思いましたが、ご自身としてはどのように考えていらっしゃるのでしょうか?

『がんばらないずぼら和菓子』(土屋タダヒロ/淡交社)

土屋:和菓子っていいものなんですよ。だけど、どんどん馴染みがなくなってしまっている。だから、作ることも楽しんでもらえたらいいなと思っていて。例えば今の季節だったら、うぐいす餅が電子レンジで作れるということを伝えるだけでも全然違うと思うんです。簡単に和菓子が作れるということを伝えたいですし、実際に自分で作ってみるとすごくおいしいと思うんです。だからまずは敷居を下げる……というか、敷居は高いままでもいいですが、敷居をもっと近くにしてあげるというのは、してもいいんじゃないかなと思っています。

──「レンジで作れるなら作ってみようかな」と思って興味を持った人が、土屋さんのようにいつか和菓子職人募集の張り紙を見て和菓子職人になるかもしれないですしね。

土屋:そうですね。実はうちの店にも、中学生くらいの女の子が「大きくなったらここで働きたい」と言いに来てくれたことがあるんですよ。「待ってるね」と答えました。本当に来てくれるかはわからないですが、そうやって言ってくれただけでもうれしかったですね。

──本作を読んだことで、ご自身のお仕事に対する考え方などに何か変化や影響があれば教えてください。

土屋:初心にかえらされました。和菓子職人になってある程度時間が経って、独立もして、人に任せることも増えたぶん、接客からは離れてしまっていたんですが、改めてお客様と出会って、喜んでいただける伝え方や和菓子作りをしていきたいなと思いました。

──ではこの本をどんな人におすすめしたいですか?

土屋:もちろん和菓子が好きな人にも読んでいただきたいですが、個人的には、ちょっと不器用な人とか気持ちの伝え方がわからない人に読んでほしいなと思いました。旭や有楽は、ぶっきらぼうですが、その分、和菓子を通して人を励ましたり、思いを伝えたりしていますよね。その様を見て「そんな伝え方もあるんだ」と知ることができると思うので、人間関係で悩んでいる人や、気持ちを伝えるのが苦手な人にも刺さるんじゃないかなと思います。

和菓子職人・土屋タダヒロ

■福来雀あずき宿 山形本店
〒990-0810
山形県山形市馬見ケ崎1-18-14
営業時間:10:00~18:00
定休日:なし
TEL:023-664-3737
※2026年2月時点の情報です。

公式オンラインストア:https://azukiyado.shop-pro.jp/

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