【漫画】『かくかまた』くさかべゆうへいが語る、“漫画家”の正体「作り続けている時点でその人は“すごい人”」

『かくかまた』くさかべゆうへいが語る
『かくかまた』1巻(くさかべゆうへい/小学館)

 どうして漫画家は、漫画を描き続けるのだろうか。連載を勝ち取れるのはほんのひと握り。人気が出なければ打ち切られ、一度ヒットしても次もヒットする保証はない。側から見たら博打すぎる職業のようにも思えるが、それでも漫画家は筆を執り続ける。彼らをそこまで突き動かす“正体”は、なんなのだろうか。

 今回お話を聞いたのは、漫画専門学校に通う男女を描いた漫画作品『かくかまた』の作者である、くさかべゆうへい氏。くさかべ氏自身、漫画専門学校に通っていたという。そんな実体験から生まれた本作『かくかまた』は、“なぜ漫画を描き続けるのか”を、悩みもがくキャラクターたちとともに追っていく作品となっている。

 インタビューではさらに漫画専門学校という特殊な環境についてや、くさかべ氏にとっての“描き続ける意味”までを深掘りをした。
(2026年2月取材)

漫画専門学校で過ごした2年間

ーー前作の『白山と三田さん』から約1年4か月の期間がありましたが、本作が始まるまではどのように過ごしていましたか?

くさかべゆうへい(以下、くさかべ):実は、『白山と三田さん』が終わったあとにすぐ次回作の打ち合わせを始めていたんです。最初は読切作品を描く予定だったのですが、考えていくうちに連載にすることになって。

ーー連載できそうな手応えを感じていたのでしょうか?

くさかべ:いや、そのイメージは全然なかったです(笑)。ただ僕がもともと漫画専門学校に通っていたので、その経験が活かせるのではないかと思いました。

ーー先生は高校卒業後、2年間漫画専門学校に通っていたんですよね。

くさかべ:はい。僕は専門学校時代からアシスタントの仕事をしていたので、アシスタントの仕事がない日に学校に行く……という感じで、両立していました。

ーー本作を描くにあたって、母校に取材を取材したと伺いました。

くさかべ:僕の母校は、漫画学科のほかにも、イラストレーション学科、アニメーション学科、声優学科などがあるんですけど、見学に行かせてもらった年は漫画学科の生徒が2人しかいなくて(笑)。僕が通っていたときは20人くらいいたんですけど……。

ーーそうなんですか!?

くらかべ:でもその1個下の学年は20人くらいいたようなので、たまたまその年だけ極端に少なかっただけかもしれませんが、驚きましたね(笑)。漫画を描くのは大変なので……。もしかしたらいまはイラストレーターの方が人気なのかもしれません。

「漫画を描くのは大変」ーー週刊連載作家の実感がこもった言葉だ。

ーー作画環境もデジタル化が進み、かなり変化していますからね。専門学校生活を振り返ってみてどうでしたか?

くさかべ:僕はアナログでアシスタントの方にガッツリ入っていたので、学校に通っている期間は短かったのですが、学校に通っているときは楽しく描いていたと思います。学校では自分以外の人たちがどんなふうに描いているのかを知ることができたし、先生や現役の漫画家の方もいたので、そういう人たちの話を聞く機会もあって、つながりを持てるのがよかったですね。

 漫画専門学校と聞くと、漫画を描くのが上手い人たちばかりなのかなっていうイメージもあると思うんですけど、意外とそんなこともなくて。学校に入ってから漫画を勉強しようという人も多いので、初心者の方もたくさんいました。

ーーそうなんですね。

くさかべ:漫画専門学校は、漫画家になるために“絶対に行かないといけない場所”ではないんです。でも僕は漫画専門学校に行ってよかったなと思えたし、この作品を通して漫画を描くことをポジティブに捉えてもらえたらいいなと思います。

漫画家と編集者

ーー『かくかまた』の世界観について聞いていきたいのですが、前作の『白山と三田さん』に比べて、キャラクタービジュアルはかなり変化しましたよね。

くさかべ:実は作品のテーマが決まるより前に、まずちゃんと可愛い女の子とかっこいい男の子を描けるようになるのが目標だったんです。専門学校の話にするとかよりも前に、キャラデザから作り始めて。ネームを描きながら、キャラデザも別で進めていました。

 僕は絵柄があまり安定していなくて。『白山と三田さん』は、作品に合わせた絵柄にすることを意識していたんですが、このテイストで続けていくのは難しいし、正統派ではないなと思って。挑戦という意味もあって、改めてキャラデザを練りました。

ーー研究してみて、どうでしたか?

くさかべ:すごく難しかったですね。可愛いとかっこいいって、正解が誰もわからないし、言語化もできないので、編集の方も「なんか違うんだよな」というフィードバックになってしまう(笑)。とにかく数をこなして、ようやくいまの2人に辿り着きました。あとはもうキャラクターの性格や個性で補うしかないなという感じで描いています。

ーー本作の主人公である蒲田三平くんと荒川三咲さんですが、2人は絶妙な距離感を保ちつつ、少し青春っぽいシーンもありますよね。

くさかべ:そうですね。この物語はあくまで“漫画を描く話”なので、そこはちょうどいい距離感のままでいてほしいなと思っています。蒲田くんにとって荒川さんは、漫画を描く原体験をくれた人なので、大きな存在であることはたしかです。蒲田くんは荒川さんの漫画を読んで初めて面白いと感じたし、とにかく漫画を描き続けてくれているだけで嬉しい、という気持ちを抱いていると思います。

ーー漫画は漫画家と編集者が二人三脚で作るもの、というイメージがありますが、先生にとって編集者とはどんな存在ですか?

くさかべ:僕の場合は、まず自由にやりたいことをやって、ふざけるだけふざけて、そこから整えてくれる人が編集さんというイメージです。一緒になって「いいね!」と進めてしまうと、多分めちゃくちゃになりますね(笑)。

ーー先生の場合は、軌道修正をしてくれる編集者が必要なんですね(笑)。やはり人間同士なので、相性というのもありますよね。

くさかべ:そうですね……。でも結局描くのは自分なので、編集さんの言葉は聞いているようで聞いていないかもしれません(笑)。完成したのが考えていたのと全然違うものになっても面白ければいいかな、くらいの気持ちでやっています。

 あと、時期によっても関係性は変わってくるかもしれませんね。新人のころはどうやって漫画を作ったらいいのかもわからないし、何者でもないから不安になることも多いと思うので、寄り添ってくれる編集さんも多い気がします。

自身がデビューしたての頃の話も語ってくれた。

 あとこれは僕の場合かもしれませんが、編集さんが言ってくれたアドバイスを、ときが経ってから理解できることもあります。僕は新人のころ「ノリで描かないでくれ」って言われたことがあって。当時はまったく意味がわからなかったんですけど、いま考えると昔は思いついたものをそのまま描いていたような気がします。読者にこんなふうに読んで欲しいからこの構成にする、みたいな、読み手への意識が足りていなかったんだなと、いまになってわかりました。

ーー漫画家にとって編集者は、大きい存在ですね。

くさかべ:新人のころは『NARUTO -ナルト-』に憧れて、よくわからないままやりたい気持ちだけでアクション漫画を描いていたんですけど、編集の方に「ギャグシーンの方が面白かった」と言ってもらって、ギャグを中心に描くようになってからは新人賞とかも入るようになったんです。僕にとってのターニングポイントでした。

ーー先生の作品といえばやはり“ギャグ”ですが、『かくかまた』は『白山と三田さん』に比べて少しギャグ要素を抑えているように感じます。

くさかべ:漫画を描いているシーンでふざけちゃうと、この物語の場合、逆に何してるんだろうと思われそうなので(笑)。ギャグは日常のシーンに入れて、キャラクターの好感度が上がるように調整しています。『白山と三田さん』は1ページに1箇所笑えるところを作るのが目標だったんですけど、それに比べたら少なめかもしれないですね。

ーー『白山と三田さん』は、ギャグがひとつの指標になっていたんですね。

くさかべ:僕のなかでギャグは判断基準のひとつでもあって、笑えたら面白くできている、と思うようにしています。真面目なシーンだと「この流れで正解なのかな」と自分で判断しきれないときがあったりするんですけど、ギャグは自分が笑えればそれでいいと思えるので、そういう意味でも入れることが多いですね。

 『白山と三田さん』のときはツッコミが不在だったんですけど、『かくかまた』は荒川さんがツッコミポジションというか、わりと冷静に見ているキャラクターなので、そこの構図は前作に比べて違うかなと思います。

ーーでも、荒川さんもたまにボケているシーンもありますよね。

くさかべ:完全にツッコミというわけでもないんですよね。完全に役割分担をしてしまうと作りづらいなと思っていて。現実の人たちって、みんな明確に役割持ってるわけじゃないじゃないですか。だからあまり決め込んではいないです。

ーー素人目線だと、ギャグを思いつくのってすごく難しそうです。

くさかべ:そうですね……。意外と瞬間的に思いついたものがよかったりします。だから編集さんに「ここあんまり笑えなかったから直して」と言われるのが1番難しいです(笑)。冷静にギャグを考えなくちゃいけなくなってしまうので。あと、テンポ感はけっこう意識していますね。個人的には、日常のなかのあるあるとか、共感しながら笑えるリアルなギャグが好きです。

なぜ漫画を描くのか

ーー『かくかまた』は単行本ごとにテーマがあるように感じます。2月に発売された3巻は蒲田くんと父の関係性がフォーカスされていましたが、全体の構成はどのように考えていますか?

くさかべ:『白山と三田さん』は1話完結型で、どこから読んでも入れるような作り方をしていたのですが、今回はストーリー漫画というのもあって、そこはあまり意識していないです。テーマについては、(単行本の)中盤くらいまでは自由に描いて、その流れでどの方向に行った方がいいのかを考えながら描いています。なので、その巻のテーマは描いている途中で決めることが多いです。

 なかには筋書きをしっかり決めて描く人もいると思うんですけど、僕はそうなるとあまりやる気が起きないタイプなんです(笑)。けっこう天邪鬼なところもあるので、「こういうふうにしてほしい」っていうのがあると、「いや違う」ってなるんです。先が読めない焦りはありつつも、ライブ感を大事にしていますね。

くさかべゆうへい

ーー『かくかまた』の大きなテーマでもある、なぜ漫画を描き続けるのかということについてなのですが、先生はなぜ漫画を描き続けられるのでしょうか。

くさかべ:僕もそうですが、漫画家はとくに「自分はこれしかできない」と思って描いている人が多いような気がします。最初のころなんか、根拠はまったくないけど描き続けていたらいつかプロの漫画家になれるだろう、となぜか思っていました。だからやり続ける以外何もない、僕は描くだけ。という感じでずっと続けていました。

 これはすべての創作に言えることだと思うのですが、作品を作り続けている時点でその人は“すごい人”だと思うんです。なので創作を続けている限りは「自分はすごい人だ」と言い続けられるし、自分で自分のことを認めてあげることができるので、僕も辞めなければ大丈夫かな、くらいの気持ちで描き続けています。

ーー読者の方へメッセージをお願いします。

くさかべ:デビューから7~8年経って、自分が漫画を読む時も、資料として見るというか、この背景の処理の仕方いいなって思って手元に持っておくみたいな感じの見方になりました。でも、変わらず面白い漫画は純粋に面白いって思えるし、描くことだって変わらず楽しいんです。

 蒲田くんたちが僕と同じことを思うかはわかりませんが、作品の中でもそういった読者から作者へ変わっていく心情なんかももっと描かれていくんじゃないかと思います。毎週「面白かった!」と言ってもらえるよう精一杯描いていきますので、楽しく読んでいただけたら嬉しいです。

『かくかまた』(くさかべゆうへい/小学館)


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