月面で見つかった死体が5万年前のものだったら……古典SFの金字塔『星を継ぐもの』が売れ続ける理由とは?

12月4日のAmazon売れ筋ランキング「本」部門で、とある古典SF小説がランクインしていた。ジェイムズ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』(創元SF文庫)である。ハードSFの名作と言われる本書だが、この日のランキングでは6位にランクイン。根強い人気を感じさせた。
Amazonの売れ筋ランキング常連の古典的SF
『星を継ぐもの』は、ホーガンのデビュー作として1977年に出版されたSF小説だ。邦訳版は1980年に上梓され、1981年には第12回星雲賞海外長編賞を受賞。2023年には刷数104版に到達し、創元SF文庫読者投票でも1位を獲得と、四十年以上にわたって愛され続けている名作である。
実はこの『星を継ぐもの』がAmazonの売れ筋ランキングにいきなりランクインするのは、初めての現象ではない。X(旧Twitter)での投稿を参照すると、直近では今年11月にもAmazonの「人気ギフトランキング」で上昇したことがあり、それ以前にも5月ごろにランクインしていたことがあるようだ。古い作品ながら、『星を継ぐもの』は何度も売れ筋ランキングにランクインしているのである。
今回の『星を継ぐもの』のランクインに関しては直接的な原因は不明ながら、12月4日のAmazon上の人気度ランキング(過去24時間で最も売り上げが増加した商品のランキング)では2位にランクイン。それ以前の売れ筋ランキングでは1284位だったのが、この売り上げ増加によって6位に急上昇したとされている。急上昇したこと自体によって注目を浴び、さらに注文が集まった……という理由でのランクインではないだろうか。
SF小説でありながら、ある種のミステリー要素もある
『星を継ぐもの』の内容には、こういった突発的なランク上昇も納得の強度がある。舞台となるのは、人類が宇宙へと進出している時代。ストーリーは、月面で「真紅の宇宙服を着た人間のような生物の死体」が発見されたところから始まる。該当する月面での行方不明者はおらず、さらに年代測定を行なったところ、この死体は5万年前に死亡したものであることが判明。「チャーリー」と名付けられたこの死体を調査すべく物理学者のヴィクター・ハント博士が招聘され、物質を透過できる「トライマグニスコープ」を使って解析にあたる。
チャーリーの所持品には超小型の原子力パワーパックなど人類の技術を超越したアイテムが含まれており、また所持していた品物には地球のものとは全く異なる文字らしき記号が刻まれていた。数学や言語学といった多彩なジャンルの科学者が解析に動員され、ハント博士はその中心となって様々な仮説を立てるも、なかなか決定打とはならない。そんな中、木製の衛星ガニメデでのとある発見が、状況を大きく動かすことになる──。
あらすじからわかるように、本作はSF小説であると同時にある種のミステリー小説でもある。月面での「人間そっくりな5万年前の死体の発見」という魅力的な導入から始まり、探偵役であるハント博士が他の科学者たちと協力しながら仮説を立て、過去の月面と太陽系で何があったのかを解き明かしていく。チャーリーたちは地球とは別系統のものながら高度な科学力を持っており、彼らの持ち物の意味や使い道については論理的な推測が可能だ。科学者たちは証拠を積み上げて推測を行ない、仮説を立てては検証する。この地に足のついた論理的検証プロセスこそ、本書が「ハードSFの古典」と言われる所以だろう。
そして地に足のついた推測を重ねた果てに、驚天動地の結論に到達するのが『星を継ぐもの』の魅力である。論理的であるだけではなく、強烈なスケール感で「人類はどこからきたのか」という疑問に答えている点こそ、本書の特徴だろう。理屈をひとつひとつ積み上げた結果、とんでもないところまで連れて行かれるのはSFの醍醐味。名作と言われるのも納得である。
『星を継ぐもの』は現在進行形の人気作
強靭で引きの強い内容から、『星を継ぐもの』は「SF小説を読みたいなら、まずはこれ」という位置にあり続けている。いわば「SFの定番」といえる小説であり、時代を超えて読み継がれている作品だ。こういった作品にとって、ウェブでの通信販売や電子書籍形式での販売というスタイルは大きな味方だろう。いわゆる書店では棚の数に限りがあるため、特定ジャンルの古典作品をずらりと揃えておくのはなかなか難しい。
しかしウェブ上での通販ならば棚や在庫の有無に左右されることが少なく、古典的作品だろうとネットで見て思い立った時にすぐ買える。定期的に『星を継ぐもの』がAmazonのランキングで上位に食い込んでは消えていくという現象は、こういった背景があってこそのものだろう。話題を見かけた時や、ウェブ上でのレコメンドを見かけた時に、オンラインで即注文できる。そういった環境が整ったことで、『星を継ぐもの』は「SFの古典かつ、現在進行形の人気作」として存在し続けているのだ。
■書誌情報
『星を継ぐもの』
著者:ジェイムズ・P・ホーガン
翻訳:池央耿
価格:880円
発売日:2023年7月10日
出版社:東京創元社
レーベル:創元SF文庫

























