ドラクエ生みの親・堀井雄二は「定職につかずプラプラ」していた? 伝記漫画に学ぶ、自由な環境の重要性

ドラクエ生みの親、堀井雄二の半生に注目

Amazonベストセラー漂流記

 2月25日のAmazon売れ筋ランキング「本」部門で21位に入っていたのが、『新学習まんが人物館 ドラゴンクエストの生みの親 堀井雄二』(小学館)である。タイトルの通り、RPG『ドラゴンクエスト』シリーズを作り出したゲームクリエイター・堀井雄二を題材にした学習漫画だ。

 近年目立つ、ゲームクリエイターを伝記漫画にする試み。以前にも桜井政博を題材にした『まんがで知る人と仕事 桜井政博』(イースト・プレス)をここで紹介したことがあったが、今回は小学館の学習漫画シリーズである「新学習まんが人物館」の一冊。シリーズのラインナップには堀井雄二以外には水木しげる、平塚らいてう、空海、板垣退助、足利尊氏といった人物が並ぶ。水木しげるこそ比較的近年の人物だが、他は日本史の教科書で見るような人ばかり。このシリーズにとっても、ちょっと挑戦した題材であることがわかる。

漫画家志望だった少年が、ゲームの世界へ

堀井 雄二(監修)、いおり真(漫画)『ドラゴンクエストの生みの親 堀井雄二 新学習まんが人物館』(小学館)

 漫画は1954年、堀井が生まれた淡路島の洲本市から始まる。山と海が近く、山の上には洲本城があり、家のすぐ裏には貸本屋がある……という、箱庭のようなロケーションで育った堀井少年は、自然の中で遊びつつ貸本屋の漫画にもどっぷり浸かって育ち、いつしか漫画家を志すようになる。が、高校生の頃に当時大人気作家だった永井豪のところに原稿を持ち込んだ際、その反応の微妙さを見て漫画家の道をひとまず断念、早稲田大学へと進学する。

 早稲田大進学後は漫研に入部しつつ、先輩からの依頼でフリーランスのライターとしての仕事も開始。ろくに授業にも出ず、興味の向くままにライター業を続けていたところ、大学四年でバイク事故に遭って九死に一生を得ることに。その後もライター業を続けつつ似顔絵描きなどで小銭を稼いでいた堀井だが、27歳の時にマイコンに触れたこと、そして週刊少年ジャンプの編集者である鳥嶋和彦と出会ったことで、ゲームクリエイターとしての道を歩み出すことになる。

 漫画の内容は初代『ドラゴンクエスト』の発売がクライマックスとなっており、中盤以降はこのラストに向けて堀井がどうやって仲間を集め、何を考えてゲームを作っていったのかを追う展開となっている。もともと漫画家志望だった経験を活かし、ゲームに馴染みのない人に興味を持ってもらうコツとして「キャラクター」に着目。さらにジャンプの編集者であった鳥嶋の紹介によって鳥山明をキャラクターデザインに起用する経緯など、『ドラゴンクエスト』シリーズを共に作り上げた人々との出会いも描かれる。

 特にわかりやすく描写されているのが、ロールプレイングゲームという当時の日本では全く馴染みのなかった遊びを、いかにして初めてプレイする子供に理解してもらうかという工夫についてだ。あらゆる手段を使ってゲーム自体の容量を削りつつ、わかりやすく目標を提示し、ペナルティをゆるく設定し、レベル上げによって時間さえかければ誰でもクリアできるゲームデザインを設計。本書ではこれらの工夫がどのような効果を発揮したかを、小学生が読んでも理解できるように解説している。この辺りは学習漫画の面目躍如だろう。

「好きなことに没頭できる環境」の重要さ

 それにしても、読んでいてつくづく羨ましくなる漫画である。というのも、この漫画を読む限り、若き日の堀井雄二はどう見ても「特に定職につかずプラプラしている」ようにしか見えないのである。大学生の頃からツテを頼ってライター業に勤しみ、バイク事故後の復学を経ても特に就職もせず、ライター仕事をしながらブラブラしていたところでマイコンに出会い、仕事そっちのけでゲーム作りに没頭……。そのくせ有名漫画雑誌編集部にライターとして出入りし、鳥嶋という人脈だけはしっかり作っている。そしてなにより、堀井雄二はこの間ずっと就職していないのである!

 これはおそらく、当時のライター業のギャラの良さ、そして出版業界の景気の良さや空気感も関係あるのだろう。1954年生まれの堀井が20代半ばの時期といえば、1979〜1980年ごろ。出版業の景気は現在とは比べ物にならないほど良かったはずで、「原稿を書きながら編集部に入り浸って、編集者とコンピューターで遊び倒す」というような仕事の仕方でもそれなりに食っていけたわけである。なにより、当時の堀井がそういう仕事の仕方をしていたことはこの漫画にも描かれている。

 全く羨ましい限りだが、仕事に強烈に追いまくられなくてもそれなりに食え、編集部に行けば同じような趣味を面白がっているセンスの合う人間に会え、高価なマイコンを買って趣味のゲーム作りに時間を割り振っても生活できたという条件が、ゲームクリエイターとしての堀井雄二を生み出したことは、この漫画を読む限りまず間違いない。もちろんゲームクリエイターとして大成したことには、堀井本人の才能も努力も大いに関わっているだろうし、洲本という場所に生まれたことや漫画家を目指した経験なども関係していることだろう。しかしこの『ドラゴンクエストの生みの親 堀井雄二』を読んでいると、20代半ばすぎという気力も体力も充実している時期に、たまたまライターや放送作家のような時間的自由度の高い仕事で収入を得つつプラプラしていられたことが、堀井がゲームを作ることができた最大の理由なのではないかという気がしてくる。

 才能があるかどうか全然わからない若者たちが、とりあえず業界に飛び込んでダラダラ遊びながらブラブラ仕事をし、その中から新しい商売の芽が生えて、日本を代表するコンテンツが育っていく。そんな土壌があった時代の、なんと豊かなことだろうか。堀井雄二の半生や努力を描くことで、「堀井雄二のような若者が、生活に追い立てられずに好きなことに没頭できる環境」の重要さもまた強く感じさせる。『ドラゴンクエストの生みの親 堀井雄二』は、そんな学習漫画であった。

■書誌情報
『ドラゴンクエストの生みの親 堀井雄二 新学習まんが人物館』
著者:堀井 雄二(監修)、いおり真(漫画)
価格:1,210円
発売日:2026年2月24日
出版社:小学館

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる