【若林踏の文庫時評】松本若菜主演でドラマ化の社会派から、本格謎解き、コミカル学園ものミステリまで

若林踏の文庫時評(2026年2月前半)

若林踏の文庫時評

潮谷験『伯爵と三つの棺』(講談社文庫)

 2026年2月前半(2/1~2/15)発売の文庫新刊のうち、ミステリ関連で注目すべきなのは潮谷験の『伯爵と三つの棺』(講談社文庫)だろう。十八世紀ヨーロッパの架空の国を舞台にした歴史謎解きミステリ小説で、日本推理作家協会賞・本格ミステリ大賞・吉川英治文学新人賞の候補に選ばれるなど、これまでの潮谷作品のなかでも最も高い評価を得ている。

 それもそのはず、不可解な状況下での謎を丹念に解くプロセスと、歴史小説の体裁と分かち難く結びついたミステリとしてのアイディアは、純度の高い謎解きと物語性の融合を試みてきた潮谷が一つの到達点を示したものだと言えるからだ。「リアルサウンド認定2021年度国内ミステリーベスト10」第1位に選出された『時空犯』(講談社文庫)を始め、潮谷は多彩な趣向の物語に挑みながら、そこに正統的なフーダニットの興趣を自然に織り込む名手である。『伯爵と三つの棺』以降も順調に作品を発表して評価を高めているので、未読の方は今のうちに是非。

東川篤哉『学ばない探偵たちの学園』(実業之日本社文庫)

 ミステリ関連でもう1つ注目しておきたいのは、東川篤哉の『学ばない探偵たちの学園』(実業之日本社文庫)だ。〈謎解きはディナーのあとで〉シリーズで愉快な謎解きミステリの書き手として人気を誇る東川篤哉が手掛ける学園ミステリの〈鯉ヶ窪学園〉シリーズの第1作である。

 実は〈鯉ヶ窪学園〉シリーズの長編作品は実業之日本社文庫ではなく光文社文庫に収められていた。今回の実業之日本社文庫版では〈鯉ヶ窪学園〉シリーズの成り立ちなどの経緯が作者によるあとがきに詳しく書かれているので、興味がある方は目を通していただきたい。

 〈鯉ヶ窪学園〉シリーズは学校という舞台をふんだんに活かした謎解きの興趣と、青春真っ盛りの若者たちが繰り広げるコミカルで微笑ましい日常風景が特徴で、同じユーモラスなミステリでも〈謎解きはディナーのあとで〉シリーズとはまた一味違う笑いと謎解きが楽しめる。シリーズを手に取ったことが無い方はこの機会が丁度良いチャンスだろう。

月村了衛『対決』(光文社文庫)

 映像化関連では月村了衛の『対決』(光文社文庫)をピックアップ。月村は〈機龍警察〉シリーズなどの活劇小説で知られる一方、『半暮刻』(双葉社)や『虚の伽藍』(新潮社)など昭和から現在に至る日本社会の暗部を描き出す重厚な作品にも力を入れている。『対決』もその路線の1つで、「医大入試女子受験者一律減点」という実際に起きた問題を題材に取りながら、医大の不正を追う記者と、その医大で理事を務める教授の視点から社会に根深く残る性差別の複雑な有り様を炙り出していく。

 同作はNHKBSP4K・BSにて全5回のドラマ化が発表されている。主演は松本若菜、鈴木保奈美。社会問題への鋭利な切り込みが光る同作をどのようにドラマ化するのか楽しみだ。

■書誌情報
『伯爵と三つの棺』
著者:潮谷験
価格:880円
発売日:2026年2月13日
出版社:講談社
レーベル:講談社文庫

『学ばない探偵たちの学園』
著者:東川篤哉
価格:902円
発売日:2026年2月6日
出版社:実業之日本社
レーベル:実業之日本社文庫

『対決』
著者:月村了衛
価格:924円
発売日:2026年2月10日
出版社:光文社
レーベル:光文社文庫

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