どうして『スマブラ』はダメージ蓄積システムなのか ゲームデザイナー・桜井政博の戦略をマンガで読む

スマブラの生みの親、桜井政博の戦略

 10月20日のAmazon売れ筋ランキングにて、5位にランクインしていたのが『まんがで知る人と仕事 桜井政博 ゲームで世界をもっと楽しく』(イースト・プレス)である。『星のカービィ』シリーズや『大乱闘スマッシュブラザーズ』の開発者として知られる桜井政博の半生を、学習マンガのテイストでコミック化した一冊だ。

会社のピンチを救った『星のカービィ』

 今や日本を代表するゲームデザイナー/ゲームディレクターであり、自身のYouTubeチャンネルでの驚愕の動画制作方法が話題になったことも記憶に新しい桜井政博。『星のカービィ』シリーズは登場から30年以上が経過した現在でも小学生たちに大人気であり、その作者ならば"偉人"として子供向け学習マンガの題材になるのも納得だ。ちなみに本書の発売は、奇しくも『カービィ』シリーズ最新作である『カービィのエアライダー』と同タイミングとなっている。

 前述の通り学習マンガのテイストで描かれた本書だが、内容に関してはかなり実録路線。1970年に生まれた桜井がアーケードゲームに出会い、さらにファミコンと接続してプログラムを組むことができるファミリーベーシックを使ってゲーム作りを始めるところからスタートする。成長した桜井はハル研究所へと就職。のちにハル研の社長となる岩田聡と出会いつつ、入社わずか一ヶ月で『星のカービィ』の基礎となるアイデアを作り上げる。

 『カービィ』に続くゲームとして、桜井は当時の最新ハードだったNINTENDO64に対応した「4人対戦型バトルロイヤル格闘ゲーム」を着想。紆余曲折を経てこの構想は『大乱闘スマッシュブラザーズ』へと結実する。さらに桜井はハル研から独立し、より幅広い領域で活躍するようになっていく。

 内容が散らからないようにするためか『カービィ』と『スマブラ』周辺に話を絞ってはいるが、その描かれ方はかなりリアル。ハル研が山梨に新拠点を建設した後に資金が尽きた大ピンチを『カービィ』のヒットでなんとか乗り切ったエピソードは、読んでいるこちらも「こんな綱渡りでよくなんとかなったな……」と冷や汗が出る。

 また1999年の『スマブラ』発売当時は遊び方がほとんど理解されず、この状況をなんとかするためにゲーム専門誌や当時普及が始まったばかりのインターネットを使って、桜井自らが攻略方法をPRするくだりはかなりの泥臭さ。言われてみれば、発売当時の『スマブラ』は「なんだかよくわからないゲーム」という感じも強かった。このように、涼しい顔で余裕を持って仕事をしていたわけではなく、汗をかいて地味な仕事をひたすら続けた結果として桜井の現在があることを、本書はマンガの形で教えてくれる。

ゲームは“チームプレー”によって完成する

 また、本書が繰り返し強調するのは、「ゲームはデザイナー/ディレクターだけで作れる物ではない」という点だ。巻頭にはゲームに関わる代表的な業種の解説が見開きで掲載されており、ゲームは“チームプレー”によって完成することを教えてくれる。本書の中でも桜井自身の言葉として「ゲームは開発スタッフひとり一人の力が集まってようやくでき上がる」と書かれており、桜井が多くのスタッフと一緒に『スマブラ』を作り上げていく様子が描かれる。

 ともすれば天才的ゲームデザイナーとして紹介されることの多い桜井だが、本人が監修しているこのマンガでは「現代の大型ゲームは一人では作れない」ことが何度も描かれる。そんな桜井の仕事ぶりについては、岩田の台詞で「どんなチームやプロジェクトでも、最初に明確な目標を立ててブレずにその方向へ進んでいける、すぐれたディレクター力を持っている」と形容される。現代の大型ゲーム開発は大人数のチームで進めること、そして桜井の役割であり能力はチームの目標を明確にし、そこに向かって指揮を取ることなのだ。

 もう一点印象的なポイントは、劇中の桜井が常に「このゲームは一体何が面白いのか」を考え続けている点だ。マンガの冒頭から桜井は「この敵はなんでこんな攻撃パターンなんだろう」と考えており、少年期から熱心にゲームで遊んでは面白さを解析・研究してきたことが説明される。

 桜井が今まで手がけてきたゲームがそういった解析の上に成り立っていることがスルッと理解できるのが、本書の面白いところだろう。例えば、『カービィ』の「吸い込み」「吐き出し」「コピー」の能力が、ゲーム性にどう関わっているのか。体力ゲージを削るのではなく、ダメージの蓄積によってリアクションが変化する『スマブラ』のシステムは、どのような発想から生まれたのか。お馴染みのゲームに搭載され当たり前のように遊んでいる要素が、どのような「面白さ」につながっているのかを、本書はわかりやすく解説してくれる。マンガの中で自作の面白さが非常に明瞭に言語化されているのは、桜井の監修あればこそではないだろうか。

 ということで、異色の「学習マンガ」ながら、本書の内容はかなりのストロングスタイル。派手な誇張や大げさな描写を極力省き、桜井政博という人間がどのように今のポジションに辿り着き、どのようにゲームを作っているのかを丁寧に描いている。前述のように、本書は『カービィ』シリーズの最新作と発売タイミングが揃っている。『エアライダー』で遊びつつ本書を読めば、ゲームという“遊び”への理解がグッと深まるかもしれない。

■書誌情報
『まんがで知る人と仕事 桜井政博 ゲームで世界をもっと楽しく』
監修:桜井政博
漫画:尾野こし(サイドランチ)
価格:1,430円
発売日:2025年11月18日
出版社:イースト・プレス

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