広瀬すず、『遠い山なみの光』熱演で決定づけた「令和の銀幕スター」としての圧倒的存在感

ノーベル賞作家カズオ・イシグロが1982年に発表した長編デビュー作『遠い山なみの光』( 早川書房)を、『ある男』の石川慶監督が映画化。9月5日に公開が始まり、話題を呼んでいる。
本作は日本、イギリス、ポーランドの3カ国共同製作。第78回カンヌ国際映画祭では「ある視点」部門に正式出品され、国際的にも注目を集めた。
物語は戦後復興期の長崎と1980年代のイギリスを舞台に、二つの時代を生きる女性の心の揺れを描く。主人公の悦子を広瀬すず、長崎時代に出会う謎めいた佐知子を二階堂ふみ、イギリスで暮らす中年期の悦子を吉田羊が演じ、松下洸平、三浦友和、柴田理恵らが脇を固める。
イシグロはさるインタビューにて、「この小説は25歳のときに書いた初めての長編で、結末にはずっと心残りがあった」と語り、石川監督に「自分なりの解決策を見つけてほしい」と伝えたという。イシグロ自身がエグゼクティブ・プロデューサーとして制作に関わり、脚本の初稿段階では監督とロンドンで長時間議論を重ねたことも明かしている。
また、石川監督のインタビューによれば、「20代後半の悦子役に最も当事者性を持つ俳優」として広瀬が真っ先に候補に挙がったそう。監督が手紙で出演を依頼し、広瀬が快諾した経緯もあったそうで、撮影現場では広瀬がベテランのように落ち着いた存在感を放っていたと絶賛している。
そんな広瀬の近年の活動を振り返ると、「映画女優」としての歩みが顕著だ。今年だけでも『ゆきてかへらぬ』『片思い世界』に続き『遠い山なみの光』と3本連続で主演作が公開され、9月19日には大作映画『宝島』への出演も控えているなど、まさに今年は“広瀬すずイヤー”と言っていいだろう。
今作のビジュアルは『サザエさん』を連想させられたが、広瀬が着ると清楚で可愛らしく、魅力が増して見えるから不思議だ。クラシカルな装いと現代的な美貌の融合が観客の心をつかみ、数少ない“銀幕女優”としての資質を持っているように映る。民放ドラマではその繊細な芝居が過剰な演出の中で埋もれがちだが、映画では彼女の表情や沈黙が物語に深みを与え、作品全体の格を一段引き上げているのは間違いない。
また、彼女が所属するフォスター・プラスは新人発掘にも積極的で、2025年には「銀幕スター特別オーディション」を開催し、映画界で活躍する次世代俳優の育成に力を入れている。映画スターを明確に育てようとするこの方針は、テレビ露出よりも映画出演を主戦場に置く広瀬のキャリア形成と一致しており、事務所が一貫して“銀幕女優”としての立ち位置を意識していることがうかがえる。
映画レビューでも、「広瀬演じる悦子は、過去の痛みと向き合う強さと脆さが同時に表現されており心に残った」「二階堂ふみとの緊張感ある共演が素晴らしく、二人の関係性に引き込まれた」「石川監督の演出が繊細で、広瀬さんの演技を最大限に引き出している」「戦後の長崎の情景描写が美しく、広瀬すずのレトロな装いが物語に説得力を与えている」といった声が飛び交い、本作に対する好意的な声が多い。
昭和の時代には吉永小百合をはじめ、「銀幕女優」と呼ばれた名優がスクリーンを彩った。薬師丸ひろ子が“最後の映画女優”などと呼ばれているが、広瀬もその系譜に名を連ねていきそうだ。
























