『俺の妹』『エロマンガ先生』かんざきひろが語る 業界屈指のマルチクリエイターの仕事術

イラストレーター・かんざきひろが語る仕事術

ライトノベルは何がヒットするかわからない

――おそらく、かんざき先生のファンの多くは、ライトノベルの仕事を通じて認知された方が多いと思います。『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』をはじめ、その後の『エロマンガ先生』と、ライトノベルのヒット作に関わっておられますね。ただ、2000年代の仕事を見るとアニメーターの仕事が多く、ラノベを手掛けたのは後半になってからなのですね。

かんざき:はい。2009年ごろですね。そもそも、2000年代初めにアニメーターを志すにあたって、他をやりながら生半可な気持ちではできないと思い、アニメ一本で勉強し直そうと思ったので、他の仕事を断っていたんですよ。それに、アニメ業界は相当厳しい仕事だと聞いていたので、友達の家の空いている部屋に特別に安い値段で住まわせて貰っていました。

――ラノベの仕事は編集さんからの連絡がきっかけだったのでしょうか。

かんざき:そうですね、もともとは『電撃hp』という雑誌で挿絵を描かせていただいたことがあるのですが、その頃は実力不足を実感するばかりで、アニメーターとして数年経験を積んだ今ならもっとやれる事がたくさんあるだろう、と思い引き受けることにしました。ラノベの仕事をやってみて面白かった点、そして大変な点は、何がヒットするかわからない部分でしょうか。

――『俺の妹』のヒットは予想外だったということですか。

かんざき:『俺の妹』より先に『ねこシス』の依頼があったので、てっきり『ねこシス』がなるんだと思っていました。ところが、蓋を開けてみれば……あとは皆様のご存じの通りでして(笑)。

ラノベの歴史に残る傑作表紙はどう生まれた?

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(電撃文庫)

――その後のことはよく存じております。『俺の妹』は秋葉原の書店で平積みになっていましたし、アニメも大ヒットしました。個人的に、1巻の表紙はラノベの歴史に残る傑作だと思っています。あのイラストは、売れることを狙って描いたのですか。

かんざき:1巻が発売されたときは、秋葉原などを見て回ることができなかったのですが、反響が凄まじかったのは覚えています。ただ、忙しくてスケジュールの余裕がなかったですし、普通のイラストを仕上げるのと同じ感覚で描いています。時間はかかっていますが、極端にめちゃくちゃかけたわけではない。あの当時なりに自分で考えて目立ちそうなものを描いたつもりですが、絶対に売れると狙ったわけではありません。それがわかって描けていたら、苦労はないですからね(笑)。

――かんざき先生は、ラノベがヒットする法則のようなものはあると思いますか。

かんざき:知っていたらやりますけれどね(笑)。はっきり言って、そんなものはないです。あったら知りたい(笑)。たまたま時代の求めているものにマッチした、運がよかったに尽きます。そもそも『ねこシス』を編集部は売りたかったわけですから、どっちもいいものにしようと同じくらい頑張って描きました。

――『ねこシス』と『俺の妹』が同時進行で進んでいたのも凄い話ですが、依頼は『ねこシス』のほうが早かったのでしょうか。

かんざき:猫耳が生えた女の子をよく描いていたこともあって、そういう女の子が出てくる話ということで『ねこシス』の依頼が来たんです。そのなかで伏見さんが、もう1つ作っているものがあって……と頼まれたのが『俺の妹』です。それまではロリ寄りの絵柄だったのですが、『俺の妹』のとき、設定も高校生だし頭身を上げたらいいと考えました。それがちょうどいいバランスだったのかもしれませんね。

伏見つかさとコンビでヒット連発した要因

『エロマンガ先生』(電撃文庫)

――伏見つかささんとは、『俺妹』をはじめ、『ねこシス』『エロマンガ先生』『私の初恋は恥ずかしすぎて誰にも言えない』と、4作連続でコンビを組んでおられます。

かんざき:そんなにプライベートで付き合いがあるわけではないですが、ありがたいことに仕事ではいい関係ですね。僕はあんまり文章を読むのが得意ではないのですが、伏見さんの文章はとっつきやすいんです。だから、キャラのイメージも浮かびやすかったですね。

――ラノベのキャラはどうやってデザインされるのですか。

かんざき:キャラデザは、発注をもとに作っていきます。キャラの具体的なイメージが書いてあって、それに合わせて膨らませていきます。だから、僕の完全なオリジナルではなく、明確なイメージが先にあったといえます。アニメのキャラデザはいろんな人の意見が入るので一発OKが出ないのですが、ラノベの場合、リテイクはそんなになくて、割とお任せに近い部分があったかもしれません。

――『俺の妹』の桐乃は、今見ても全然古さを感じない素晴らしいデザインです。

かんざき:『俺の妹』が出た当時、ラノベではギャルの前例が少なかったんですよね。自分の絵柄に合ったギャルっぽい見せ方はどんな感じだろうと考えて、あの形に落ち着いたのです。あえてリアルさに走るのではなく、ギャルっぽい記号をデフォルメして盛り込みました。そして、オタクから受け入れられやすいギャルのイメージはどんなものかと、バランスを考えた結果ですね。

――『エロマンガ先生』の紗霧も性格などを投影した見事なデザインですね。女の子で銀髪がとてもかわいいです。

かんざき:伏見さんが銀髪と指定したんだと思います。伏見さんは、流行りをちゃんとわかっているんですよ。ネット小説などもチェックされていますから、トレンドをつかむ能力は凄いと思います。

――『俺の妹』『エロマンガ先生』に関しては、ラノベの絵を描いたかんざき先生がアニメのキャラデザも自ら務めました。ありそうでない、稀有な例ではないかと思います。

かんざき:自然な流れでそうなったのですが、やってよかったですね。ラノベを始めた頃とアニメ化が決定した頃では絵柄が変わっていたので、アニメではその時点での最新の絵柄でキャラ表をまとめています。アニメーターのみなさんが、絵を見たときに作品に関わりたくなるようなキャラ表を意識して作りました。そのおかげか、ベテランのアニメーターがかかわってくださり、いい作品になったと思います。

仕事の幅が多彩になっている

――異色の仕事といえば、漫☆画太郎先生の『罪と罰』の表紙を手掛けています。あの仕事をしたきっかけが気になります。

かんざき:あれも、僕自身も「なんで?」という感じでしたが、編集さんから直接指名でお願いしたいと言われたのです。たぶん画太郎先生が僕を希望してくださったのだと思うのですが、直接お会いしたわけではないので、わかりません。ただ、画太郎先生もかわいらしい女の子キャラを作品でよく描かれるので、その流れなのかな、と思います。

――これまでのお話を伺っていると、かんざき先生は興味のあることを何でも手広くやってみたくなるタイプ、という感じなのでしょうか。

かんざき:若いころは結構流行りものに対して斜に構えていたのですが、実際に輪の中に入ってみると確かに面白い、と思うようになりました。流行ってみるものは体感してみないとわからないし、流行っているものならではの理由がある、触れないともったいないなと考え方が変わった気がします。

――ありがとうございます。画集が刊行され、一区切りがついたのではないかと思いますが、今後の活動についてお聞かせください。

かんざき:正直この歳まで仕事を続けてこられると思ってもいなかったので、この先どうしようか……と考えているところではあります。惰性でこのまま続けるのも面白くはないですし、新しいこともしてみたいですね。思い返すとこの15年くらいはCGM(注:一般ユーザー参加型のコンテンツ)のようなムーヴメントに夢中になり、そこから大きなフィードバックを貰ってきた気がしますので、そういう刺激は求めていきたいですね。明確な目標があるわけではありませんが、新しいことはやっていきたいなと。それがどんなものになるのかはまだわかりませんが、今後の活動も暖かく見守っていただければ幸いです。

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