「ヤクザの“本気度”に敵わない」今野敏が語る任侠×人情の新しいヒーロー像――『任俠楽団』文庫化インタビュー

ぶつかり合うだけでは快感は生まれない
――それは確かに、普通の上司では出せない説得力ですね。
今野:また、ヤクザというのは情報産業なので、連絡を密にとります。情報を手に入れて、活用できる強さがある。そこは私たちも真似しないといけないですね。ヤクザにとって情報はお金になるし、情報がなければ自分たちの命にも関わってくる。だから本気で情報を集めるんです。そのために、しょっちゅう電話をかけていますから。昔、携帯電話ができて一番恩恵を受けたのはヤクザか警察だと言われていました。それまでヤクザの人は公衆電話で連絡をとるために、10円玉をたくさん持ち歩いていました。
――今野さんの小説では人間ドラマが丁寧に描かれています。『任俠書房』で言えば、万年筆1本にまつわるとあるエピソードを通じて、人が生き生きとしはじめますね。そんな細やかな感情のやりとりはどのように描いているんでしょうか。
今野:それはもうテクニックです。長年書いていますから。万年筆1本のエピソードで、ヤクザとはどういうものなのか、人間関係などもわかるようにしたい。そういう象徴を見つけて、物語の中に埋め込んでいくんです。でも必死に考えて思いつくわけではありません。書いているうちに自然と思い浮かびます。
――どの作品も各業界で働く人に対してリスペクトがあり、かっこよく描かれているように思いました。人を描く上で大事にしていることはありますか。
今野:やっぱり人が対立しているだけじゃダメだと思っています。小説を書く時には、いかに読者が快感を覚えるかを考えていますが、対立しているだけだと快感は得られない。人と人が理解しあって、協力していくところに快感が生まれます。
――今野さんの小説を読んでいると、読者は手に汗を握ったり、学びを得たり、いろんな感覚になりますが、最後にはハッピーな気持ちにさせてくれますね。そうした余韻を大事にされているのはなぜですか。
今野:このシリーズは、全部ハッピーエンドです。いい終わり方にしたい、その着地点を大事にしています。
自分自身、そういう話を読むのが好きでした。もちろん、ハッピーエンドの小説だけが正しいわけじゃなくて、問題を見つめて読後感が嫌な感じになるような小説も必要だと思っています。でも、今野敏という作家の役割はそうじゃない。とにかく読み終わった時に元気になってもらうこと、それだけだと思うんです。
■書誌情報
『任侠楽団』(中公文庫)
著者:今野敏
価格:836円
発売日:2025年6月20日
出版社:中央公論新社
























