『地球の歩き方』であの頃にタイムスリップ? 「昭和レトロ」を味わうための観光ガイドがおもしろい

Amazonベストセラー漂流記

2月5日のAmazon売れ筋ランキング「本」部門で66位にランクインしていたのが、『地球の歩き方歴史時代シリーズ 昭和レトロ』である。ご存知『地球の歩き方』シリーズが、その編集ノウハウを活かして「昭和っぽいスポットや物事・アイテム」についてまとめた一冊だ。
地域や国に特化した旅行ガイドブックの定番として、長く読まれ続けている『地球の歩き方』シリーズ。海外旅行が難しかったコロナ禍の時期を経て、近年では日本国内の旅行にフォーカスした書籍を刊行したり、雑誌『ムー』や『ジョジョの奇妙な冒険』とのコラボの発表、さらに海外のグルメを再現した食品を監修したりと、ただの旅行ガイドに収まらない多角的な展開を見せている。
昭和の懐かしさを旅するガイドブック
その一環と言えるのが、「歴史時代シリーズ」だ。このシリーズは「歴史心をくすぐる旅の案内書」として編集されており、特定の年代の様子が残っているエリアの紹介や、その年代の風物の解説、博物館のガイドなどに特化した内容となっている。これまでに「戦国」「ハプスブルク帝国」の二冊が刊行されており、今回の「昭和レトロ」が三冊目にして最も現代に近い時代を扱ったものとなる。
で、この『地球の歩き方 昭和レトロ』だが、本の中で扱っているのは基本的に昭和20年から昭和末期にかけての時代。戦前は含まず、いわゆる高度成長期からバブル直前あたりの時代を紹介した本となっている。本の構成としては、まず第一章の「あの時代ダイジェスト」で昭和20年から10年ごとに区切って、その時期の代表的な出来事や発売された商品を紹介。この章でおよそ昭和期の出来事や時代の流れを理解したのち、具体的に昭和の風景が残っている場所や昭和期の洋食を食べられる店の紹介、映画や漫画といった昭和期のカルチャー、博物館のガイドが掲載され、そして最後に「旅の準備と技術」という章で、実際に昭和にタイムスリップした時に役立つような、具体的な移動や連絡のテクニックが紹介されている。
基本的に公害や差別、ヤクザにテロといった昭和のダークサイドには触れず、あくまで『三丁目の夕日』的な世界観やエモ感に振った内容となっており、昭和史の明るく懐かしい面にフォーカスした内容。レトロと言いつつ、テーマパーク型ではない遊園地や銭湯、公園の遊具にナポリタン・オムライス・クリームソーダのような喫茶店メニュー、駄菓子にドライブインに各種自販機と、愛好家からすれば「今でも全然現役ですよ!」と言いたくなるようなアイテムの紹介が並んでいるのも印象的。日常的に駄菓子を買ったり銭湯に行ったりしている中年の立場からすれば、「これもすでに昭和レトロなのか……」と逆に驚かされるところもある。
昭和文化を背景知識付きで深掘りできる取材型ガイド
ただ、「地球の歩き方」シリーズらしい取材力を感じさせるページも多い。高度成長期に建造された公共施設などを巡る「建造物」のページでは、建物の外観だけではなく設計した建築家のプロフィールや建造物の特徴や見どころがコンパクトにまとまっており、読んでいて思わず「へえ〜」と言ってしまうようなページも多数。ナポリタンやオムライスのようなレトロ系メニューを出す店を紹介するページにしても、それぞれの料理の由来が簡単に解説されており、単なる飲食店のガイドにはなっていないのが『地球の歩き方』っぽいポイントだろう。
特に「昭和カルチャー」をまとめたページは楽しい。映画や漫画、テレビヒーロー、歌謡曲といったテーマごとに代表的な作品がまとめられており、さらにそれぞれのカテゴリーに関する資料館やミュージアムのガイドがついている。これらのミュージアムも都市部のものだけではなく全国に散らばったものが網羅されており、日本にはこんなにサブカルチャー関連の施設があるのか……と、改めて驚かされる。
「昭和っぽさ」が観光資源になっている
さらに興味深いのは、第五章「よみがえるネオ昭和」のページだ。この章には全国に存在する「昭和っぽい街並みや雰囲気を再現した施設・テーマパーク・ミュージアム」がまとめられている。つまり、人為的に作った「昭和っぽさ」を売りにしたスポットを紹介しているページなのである。特に大分の豊後高田は街ぐるみで「昭和っぽさ」を押し出しており、昭和レトロを推して観光や町おこしを行っている様子には驚いた。同様のコンセプトを持つ施設は全国各地に存在しているようで、もはや現在の我々からすれば、「昭和」は観光資源になるほど珍しいものになっていることがわかる。「昭和」を感じられるスポットは、もはや日光江戸村や太秦映画村みたいなものなのだ。
昭和が終わって37年。昭和末期生まれで、まだまだ昭和期と地続き感のあった平成初期に子供時代を過ごした自分の立場からすれば「これも"昭和レトロ"にカウントされちゃうのかあ……」という驚愕もあるが、そういったギャップを味わう意味でもなかなか興味深い一冊だった。「昭和レトロ」を味わうための観光ガイドとしてストレートに使える本だが、親子など世代が違う人と集まってギャーギャー言いながら読むのも楽しいはず。現在何が「昭和レトロ」として扱われているかが具体的にわかる、楽しいガイドブックである。























