原点は司馬遼太郎『坂の上の雲』? 『アキツ大戦記』扶桑かつみ×『オルクセン王国史』樽見京一郎スペシャル対談 

扶桑かつみ×樽見京一郎スペシャル対談

ヒロイン不足? 両作の共通点

――『アキツ』も『オルクセン』もライトノベルのレーベルから刊行されている関係からキャラクター性が強く出ている気がします。

扶桑:キャラ立てについてはあまり考えたことはなかったですね。主人公たちには気をつけて、あとは政治をする人たちと軍隊をする人たちを必ず2人ずつ出して掛け合いをさせていく前提でキャラを置いた感じです。起伏が激しかったり若すぎたりというキャラはなるべく出さないようにしました。大人たちが大人の戦争をしているということを見せたかったからです。激情に駆られて突撃するような人は戦争にはいらないんですよ。

樽見:『オルクセン』もグスタフに関してはどんどんと影が薄くなっている感じですね。第3巻以降になると完全に群像劇になって将軍の方が出番が多いくらい。グスタフも出てはきますが、あくまで戦争の一部としてです。国王のグスタフですら一部になってしまうのが近代戦争なんだよということをやりたかったんです。グスタフ1人では何もできないし、全部を見られる訳でもない。全部は見られないよっていうこの辺りが第3巻から色濃くなって来ていますね。

扶桑:どちらもヒロイン不足ですね(笑)。

樽見:戦争であまり変なキャラは出てこないという部分といっしょですね。あまりヒロインがバンバンとはなりません。

扶桑:ナポレオン戦争あたりを舞台にしようとは考えられなかったのでしょうか?

樽見:魔物と科学のバランスを考えていた時に、ナポレオン戦争の頃はまだ魔物が平気で勝っていそうだなと思ったんですよ。交戦距離も短いですし鉄砲の威力もそれほど高くはありません。槍を持ったオークの軍団を突っ込ませるだけで崩せそうだと思ってしまったので。

扶桑:確かに。もしも1人を主人公に立てるのなら、あのあたりが限界かもしれませんね。

樽見:そうですね。1人の英雄の力でひっくり返せる最後の戦争だったかもしれませんね、ナポレオン戦争は。

――改めて扶桑先生、樽見先生の戦記に関する造詣の深さに感嘆しました。なにかお勧めの戦記物ってあるんでしょうか?

扶桑:入門書はやはり『坂の上の雲』だと思います。読みやすさではピカイチですし読んでためになります。

樽見:同感です。

小説家としてのこれから

――これからの活動について教えて下さい。

扶桑:まずは『アキツ』を書きたいですし、「なろう」に連載の小説は商業が続く続かないにかかわらず完結させたいですね。『アキツ』については、冒頭に第一次世界大戦をモチーフにした戦争を描いたのでそこまで先が長いです。プロット自体はおおまかなものを作ってあって第6部くらいまであるので、1部あたり50話から100話とすると……はるか彼方ですね。でも終わらせるのがポリシーなので必ず書きます。

樽見:『オルクセン』自体はWeb連載はほぼ完結していて、外伝も区切りのいいところまで行っているのでそれを終わらせることですね。あとは扶桑先生が今回書かれたような東洋風のものをやってみたいというのがひとつあります。

扶桑:ぜひ書いてください!

樽見:あとはもう1つ、ファンタジーで時代劇をやりたいなって思ってます。東洋ファンタジーというよりは日本の時代劇みたいなものですね。池波正太郎先生が好きなので、『剣客商売』とか『鬼平犯科帳』みたいなものを、ファンタジーでやれないかなと考えています。

扶桑:捕り物系はファンタジーですら滅多にありませんから、面白そうですね。

樽見:ファンタジーに定番で出てくる城下町的なものを使えば書けるのではと思っていろいろ考えています。

扶桑:戦争はもう書かれないのですか?

樽見:『オルクセン王国史』でちょっと疲れました(笑)。

扶桑:あれだけがっつりと書かれればそうでしょう(笑)。

樽見:ただ読者の方々から求められているのはそうした方向のような気もします。もしも戦争をやるなら東洋風のファンタジーですね。

扶桑:今度は海をかきましょうよ。

樽見:近代の海軍をファンタジーでできないだろうか、それを東洋風でとは思っています。蒸気の軍艦に近代の軍艦にドラゴンとか載せられないかなと考えてるんですよ。

――佐藤大輔先生の『皇国の守護者』のようですね。

樽見:『オルクセン』はもともとそうした世界を描きたくて作った世界観だったところがありますが、あまりにも近くなってしまうのでやりませんでした。

扶桑:私も佐藤大輔先生のタッチに寄せてみようとしたところはありますね。

――扶桑先生、樽見先生から読者にメッセージを。

樽見:今は完結まで走れればと思ってますので、皆さんに従来と変わらずご声援をいただければなと思っております。

扶桑:初めて出る作品ですし、戦争が書いてあるといってもまだ戦闘描写らしい戦闘描写がないので、この続きも読んでください。

――お互いにエールを。

扶桑:『オルクセン』は連載時からファンなので、まずは完結をお願いしますとファンを代表してお願いします。

樽見:拝見する限り、人生のご先輩の方で私から言えることはありませんが、ご武運をお祈りしております。

――『オルクセン』のように『アキツ』もコミカライズされると良いですね。

扶桑:この記事を読んだ編集者の方がいらしたら、マイクロマガジン社までよろしくお願い致します。

――本日はありがとうございました。



関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる