『サイボーグ009』未完の章は「失敗作」なのか? 巨匠・石ノ森章太郎が完結編で伝えようとしたもの

終わることができぬほど面白い物語
果たしてこの2作は、「失敗作」なのだろうか。私はそうは思わない。むしろ、「天使編」と「神々との闘い編」という物語は、未完であるがゆえに傑作になった、とさえ思っている。
たとえば、国枝史郎の伝奇小説『神州纐纈城』も未完の傑作だが、同作について、半村良はこんなことを書いている。
伝奇小説の面白さのひとつは、ストーリーが次々にふくれあがって行く面白さでもある。(中略)
したがって『蔦葛』や『纐纈城』が未完の形で残っていることを、私はさして残念に思わない。もし作者が未完であることを残念に思って逝かれたとしたら、そのことのほうを私は残念に思う。
国枝さんは遂に終ることができぬほど面白い伝奇小説をお書きになったのである。
~国枝史郎『神州纐纈城』(講談社大衆文学館)所収・半村良「巻末エッセイ・無窮迷路の味」より~
このことは、石ノ森章太郎の「天使編」と「神々との闘い編」についてもいえるのではないだろうか。少なくとも私は、この2作を「終ることができぬほど面白い」物語だと思っている。
巨匠の遺志を受け継いだ作家たちによる『サイボーグ009』完結編
とはいえ、晩年の石ノ森章太郎は、自身の仕事の集大成として、『サイボーグ009』の(3度目の)「完結編」の構想を練っていたようだ。しかし、1998年1月、石ノ森章太郎逝去(享年60歳)。
その後――2012年から2014年にかけて、遺された数冊の構想ノートと小説原稿(※石ノ森は、『サイボーグ009』の「完結編」を、小説と漫画の形で発表しようとしていた)をもとに、小野寺丈(原作)、早瀬マサト・シュガー佐藤(漫画)らが制作したのが、『サイボーグ009 完結編 conclusion GOD’S WAR』である(早瀬・佐藤による漫画版は小学館より全5巻で刊行。小野寺による小説版[※]は、2012年、角川文庫より全3巻で刊行)。
※小説版の正式タイトルは、『サイボーグ009 完結編 2012 009 conclusion GOD’S WAR』。また、文庫の1巻に収録されている物語は、2006年に刊行されたハードカバー版のテキストに加筆・修正を施したもの。
むろん、石ノ森章太郎の手が入っていないこれらの作品を、正規の「完結編」として認めたくないというファンも少なくないだろう(※ただし、小説版では、石ノ森が書いたテキストが一部使われている)。だが、私としては、巨匠の頭の中にしか存在しなかった物語の全体像(および「神々」の正体)を垣間みることができただけでも充分であったし、小野寺、早瀬、佐藤という石ノ森の魂を受け継いだ3人だからこそ、やり遂げることのできた大仕事だったともいえるのである。
かつて、「天使編」の最後の1コマ――石ノ森章太郎による「読者の皆様へ」という一文を読んで悶々としたことがあるような方は、併せてこちらも読んでみるといいだろう。
※本稿は、『サイボーグ009 天使編・神々との闘い編 特別編集版』の巻末に掲載されている拙稿(解題)のテキストを一部流用しています。(筆者)























