『サイボーグ009 太平洋の亡霊』は今読むべき一冊 石ノ森章太郎が込めた平和への願い

『サイボーグ009 太平洋の亡霊』レビュー

 早瀬マサトの作画による『サイボーグ009 太平洋の亡霊』(原作:石ノ森章太郎/脚本:辻真先)の単行本が、発売早々重版されたようだ。

 同作は、『サイボーグ009』の最初のテレビアニメシリーズの第16話――いまなお「伝説の回」として語り継がれている名作「太平洋の亡霊」を漫画化したもの。「最初の」と書いたのは、これまで3度『サイボーグ009』がテレビアニメ化されているからだが、1968年に放送されたこの第1シリーズは、最も「反戦色」が強いことでも知られている。

 そもそも1964年に連載が始まった石ノ森章太郎の『サイボーグ009』は、東西冷戦を背景に生まれた作品であった。人知れず死の商人「黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)」にさらわれ、肉体を改造された主人公たち(9人のゼロゼロナンバー・サイボーグ)は、理不尽ともいえる自らの運命を受け入れ、世界征服を企む「黒い幽霊団」と闘うことになる。

 そして、シリーズ最初のクライマックスともいうべき「地下帝国“ヨミ”編」のラストシーンにおいて、闘いを終えて“流れ星”と化した009と002を地上から見上げる少女は、こう願うのだった。「世界に戦争がなくなりますように……世界中の人がなかよく平和にくらせますように」と(このセリフは、無邪気に「おもちゃのライフル銃」が欲しいと「星」に願った弟を、彼女が軽く諌めるものでもあった)。

 なお、くだんの「太平洋の亡霊」は、脚本を担当した辻真先によるオリジナルストーリーであり、当然、辻の戦争に対する考えが色濃く反映されているものと思われるが、いま述べたような少女の――いや、原作者(石ノ森)の「平和への願い」も汲んで書かれていることだろう。

※以下、『サイボーグ009 太平洋の亡霊』のストーリーについて触れています。未読の方はご注意ください。(筆者)

サイボーグ戦士たちの敵は、甦った日本軍の亡霊!?

 さて、「太平洋の亡霊」とはこんな物語である。

 時は、真珠湾攻撃(日本時間1941年12月8日)からおよそ30年が経ったある日。サイボーグ009(島村ジョー)は、ギルモア博士やフランソワーズ(003)とともに、ハワイの地を訪れていた。

 博士の旅の目的は幼なじみの追悼であったが、ジョーとフランソワーズにとっては束の間の休息――いずれにしても、彼らは闘いのためにハワイを訪れたわけではなかった。

 しかし、米海軍の軍艦がずらりと海上に並んだ真珠湾を訪れた際、謎の特殊潜航艇と爆撃機による“奇襲”に巻き込まれてしまう。よく見れば、爆撃機の両翼には「日の丸」、そして、潜航艇のハッチから姿を現した司令官(?)の顔は――骸骨だった!

 これは甦った日本軍の亡霊たちによる攻撃なのか!? 何もわからないまま、いったんはその場を離れた009たちだったが、やがて事件の“黒幕”とおぼしき存在は、数々の日本の特攻兵器や、海に沈んでいた戦艦「大和」、さらには「長門」までをも復活させる。とりわけ危険なのは長門であり、戦後、米国の核実験の標的として沈められた同艦は、海に浮かんでいるだけでも周囲に高濃度の放射線をばらまいてしまうことだろう。

 そんななか、ある「亡霊」に襲われた航空自衛隊のパイロット(元特攻兵)の証言から、001と004が、“黒幕”の正体に辿り着く。果たしてその正体とは……。

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