「銀河鉄道の翌夜」に「武士よさらば」? 宮崎夏次系が最新短編集『もじるひと』で魅せた8ページの漫画革新

宮崎夏次系『もじるひと』8ページの革新

 宮崎夏次系が凄い、ということは、ここ数年ずっと漫画界でいわれ続けていることだが、先ごろ刊行された『もじるひと』(早川書房)を読めば、あらためてその凄さに気づかされることだろう。

 『もじるひと』は、タイトル通り、宮崎が古今東西の文学作品の題名を“捩(もじ)り”、その言葉からインスパイアされた物語(1作につき8ページのショート・コミック)を31本収録した作品集である。

 いずれも宮崎ならではの奇想に満ちた物語であり、元ネタとなった文学作品の設定や登場人物を踏襲したものもあれば(「さいゆう」、「銀河鉄道の翌夜」など)、まったく異なる物語へと変換させているもの(「武士よさらば」、「罪と×」など)もある。

 個人的には、「賢治の贈り物」と「飛ぶタンパク質」の2作に感動した。

※以下、「賢治の贈り物」と「飛ぶタンパク質」の内容に触れています。未読の方はご注意ください。(筆者)

SF&ファンタジー仕掛けの切ない物語

 「賢治の贈り物」は、「宮沢賢治が大好きで、創作小説を書いている」という少年・ユウキの物語。ある時、同人誌即売会に出展していたユウキは、宮沢賢治のコスプレをしている物静かな青年「賢治」と出会う。

 ただし、身体の弱い彼は外出ができず、ユウキが出会ったのは、バーチャルな存在だった(賢治には妹がおり、彼女がリアル世界でユウキと賢治をつなぐ役割を果たす)。

 そんなわけで、実際に会うことの叶わないふたりだったが、お互いを励まし友情を育むことで、ともに“前”を向いて生きていこうとする。しかし、ある時、賢治の妹がユウキに告げたのは――。

 本作は、シュールな形で終わる物語が少なくない本書の収録作の中にあって、ひときわ目立つ、「少年の成長」を描いた切ないファンタジーだ。

 一方の、「飛ぶタンパク質」も、ストーリーがよく練られた感動作である。

 こちらの主人公は、夫とふたりでトンカツ店を営んでいる女性。そんな彼女のもとに、ある時、謎の「袋」が届く。中に入っていたのは、1枚のCD-R(DVD?)で、差出人は彼女の息子だったが、息子のアラタはまだ幼く、字が書けるはずはない……。

 しかし、そのCD-Rは、本当にアラタが送ってきたものだった。そう、“未来のアラタ”が、彼女へのメッセージをCD-Rに込めて、「タイムトラベル袋」を送ってきたのである。

 ここから先の展開を書くのは野暮というものだろう。ただし、全てを知ったうえで、愛する息子と夫のために大きな“仕事”を成し遂げた、“強い母”の姿を描いた最後の2コマが本当に美しい、ということだけは書いておこう。

8ページあれば、漫画はここまでできる

 と、まあ、いま紹介した2作は、いずれも“泣ける”要素の大きい作品であり、比較的文章で説明しやすい傾向の作品でもある。だが、本書に収録されている作品の多くは、一筋縄ではいかない、というか、『もじるひと』(≒「文字る人」)というタイトルが皮肉に思えるくらい、文章(文字)だけではその魅力を伝え切れないトリッキーな作品ばかりだ。

 むろん、それは、宮崎夏次系があえて意図したものだろう。か細い線の連なりと、白と黒のキアロスクーロ(明暗対比)が印象的な宮崎の絵の独自性はいうまでもないが、そういうトリッキーな作品群でなければ、わざわざ“文字だけで構成された過去の傑作(文学作品)”を、新たに「漫画」で表現する意味などないからだ。

 8ページあれば、漫画はここまでできる。宮崎夏次系の『もじるひと』は、そのことを証明した革新的な作品集である。

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