連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2025年5月のベスト国内ミステリ小説

2025年5月のベスト国内ミステリ小説

梅原いずみの一冊:新馬場新『歌はそこに遺された』(徳間書店)

 死後に世界一の歌姫となった荒井海鈴。しかし海鈴殺害の容疑者の証言で、彼女の遺作はAIで作られたという疑惑が浮上、検事の堂崎は独自に調査を開始する。長編の法廷ものだが、構図は検事VS弁護士におさまらない。AIが存在感を強め、真偽が曖昧になり、民意が「正義」として暴走する社会で、法は何のため誰のために存在するのか。検事、弁護士、裁判官、立場は違えど法の番人たちそれぞれの矜持が、「海鈴の歌を遺す」選択をした者たちの覚悟とぶつかる。堂崎と弁護士・谷澤の緊張感漂う関係性が生み出す終盤の裁判シーンは必読!

橋本輝幸の一冊:新馬場新『歌はそこに遺された』(徳間書店)

 至近未来の日本で、法の番人たちが歌手の死の真相に迫る。遺作が大ヒットしている彼女はなぜ命を落としたのか。東京地検の公判検事・堂崎はみずから関係者への聞きこみを重ね、歌に託された想いを知る。

 犯人の目星がついた後も、動機や不可能犯罪が読者の関心を引っぱる。AIがあらゆる職業や業務を変えつつある未来が舞台ならではのSFミステリだ。人間とAIの関係は物語に深くかかわるテーマだが、そのほかにも現代社会の問題がいくつも盛りこまれている。本書が面白かった人は同著者の『沈没船で眠りたい』(双葉社)もおすすめ。

杉江松恋の一冊:五条紀夫『町内会死者蘇生事件』(新潮文庫nex)

 殺したはずの男が翌朝のラジオ体操にぴんぴんして現れて、という出だしでまず興味を惹かれる。題名で明かされているので書いてしまうが、死者がどういうわけか蘇生する町が舞台なのである。この奇抜な設定に作者が甘えることなく、その仕組みをきちんと書き込んでいるのが本作の魅力だ。どうやると生き返るのか、という考察が続く中盤がいちばんおもしろいのである。題名から、ご近所の同調圧力に耐えかねて、という話かと思って読むと、どうやらこの町内会にはいろいろと裏がありそうで、設定がわかってくるとさらにおもしろくなる。

 先月に続き、新鋭の躍進が目立つ月となりました。SFやライトノベルなど隣接ジャンルからの来訪もあって新鮮ですね。そろそろベテラン勢の活躍も見たいところですが、次月はいかに。

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