【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー
『竜の医師団』『バチカン奇跡調査官』『続・金星特急』……人気シリーズの新作並ぶ、注目のライト文芸5選

『少女小説を知るための100冊』や『少女小説とSF』などの著作で知られる書評家の嵯峨景子が、近作の中から今読むべき注目のライト文芸をピックアップしてご紹介する連載企画。今回は「ドラゴン×医療」がテーマの異世界ファンタジーからマリー・アントワネットの”もう一人の娘”を主人公にしたヒストリカル小説など、5タイトルをセレクト。
庵野ゆき『竜の医師団4』(創元推理文庫)
ドラゴン×医療をテーマに、医師を目指す少年の奮闘を描く異世界ファンタジーの最新刊。
虐げられし民ヤポネ人の少年リョウは、誰にでも扉を開く〈竜の医師団〉の入団を目指して〈竜ノ巣〉に向かっていた。道中で出会った少年レオは特権階級の出身だが、二人は立場を超えて友情を築き、力を合わせて試練を乗り越えていく。リョウは教育を受けていないというハンデの中で、熱を感知できる特殊な視力を武器に医師を目指していくのであった。シリーズ第4弾は、〈竜ノ医療〉大国ながら秘密主義の国イヅルに派遣されたリョウたちが目にする最先端の医療技術と、その裏で進行する恐ろしい計画を中心に展開する。
庵野ゆきはフォトグラファーと医師の共同のペンネームで、医学の知識に基づく真に迫った竜の医療描写がシリーズの見どころとなっている。人間とは寿命もサイズも異なる竜の生態に関する細やかな描写が印象的で、医療行為を通じてドラゴンと人間の絆も浮かび上がる。初の医療交流の裏には各国の思惑があり、リョウは交渉という重い任務を背負いながら、医療の根幹に関わる倫理の問題にも切り込んでいくことになる。レオの他にも重機班所属の少女リリなど、困難な任務に当たる少年少女の成長を描く異世界青春譚としても魅力的な作品だ。
藤木稟『バチカン奇跡調査官 精霊に捧げられた大地』(角川ホラー文庫)
平賀とロベルトの美形神父コンビが、世界中から寄せられた奇跡の報告を調査する大人気バディミステリー第19弾。今回の舞台はオーストラリアで、二人は真夏のクリスマスの最中に起きた奇跡に潜む真実を暴き出す。
バチカン市国の国務省内には「聖徒の座」という秘密部署があり、さまざまな特技をもつ専門家たちが奇跡の調査に携わっている。オーストラリアの教会で噴水の水が葡萄酒に変わり、その後空に輝くキリストの姿が現れるという奇跡の報告が寄せられ、真偽の判定のためにバチカンから神父が派遣された。天才科学者の平賀・ヨゼフ・庚と、古文書と暗号解読のエキスパートのロベルト・ニコラスは調査を進めていくが、その過程でカソリックとアボリジナルの対立問題も浮上する。
ドローンや精密器機などを駆使する平賀と、民俗学や古文書の知見を活かして聞き取り調査を進めるロベルト。それぞれの持ち味を生かした調査考証のディテールが面白く、アボリジナルの伝承も事件を解決する手がかりとなる。キリスト教とは異なる信仰をもつアボリジナルの文化やオーストラリアの歴史にも光を当て、西洋の知や価値観を相対化してみせる平賀たちの言葉が胸に染みた。固い信頼で結ばれた平賀とロベルトの兄弟のような関係もシリーズの大きな見どころだ。調査に集中すると寝食を忘れる平賀と、彼を気遣いつつ得意の料理の腕を振るうロベルトの姿はなんとも微笑ましい。バディ小説好きにもお薦めしたいシリーズである。
櫛木理宇『ふたり腐れ』(早川書房)
映画化された『ホーンテッド・キャンパス』や『死刑にいたる病』など、犯罪小説やサスペンスを多数手がける人気作家の新作。
26歳の市果はコールセンターで派遣社員として働きながら平凡な日常をおくっている。ある日、彼女は居酒屋で隣り合わせた男性が“女”になって人を殺す場面を目撃してしまった。行きがかり上、市果は連続殺人鬼である“女”に脅されて行動をともにすることになる。共同生活を送る中で、二人の間には奇妙な共依存関係が生まれていくが――。
物語は市果の視点と、事件を追う警察・番場の双方の視点から進む。周囲と摩擦を起こさないよう本心を隠して生きてきた市果の日常は突如様変わりし、死と犯罪に染まってしまう。一緒にコスメを見たりヌン活ができる同性の友達がほしいと願っていた彼女が初めて手に入れた友人は、恐ろしい犯罪者だった。ごく普通の二十代女性がいつしか無差別な殺人に慣れ、人殺しをしながら逃避行を続ける様は、人間の多面的な姿を突き付けるだろう。
被害者が加害者と心を通わせてしまうストックホルム症候群の物語と思いきや、物語は思いがけない結末を迎える。本当に怖いのは一体誰なのか、ラストまでたどり着いた読者は背筋が寒くなるだろう。終盤の二転三転する展開が見事なサスペンス小説である。
























