連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2024年12月のベスト国内ミステリ小説

今のミステリー界は幹線道路沿いのメガ・ドンキ並みになんでもあり。そこで最先端の情報を提供するためのレビューを毎月ご用意しました。
事前打ち合わせなし、前月に出た新刊(奥付準拠)を一人一冊ずつ挙げて書評するという方式はあの「七福神の今月の一冊」(翻訳ミステリー大賞シンジケート)と一緒。原稿の掲載が到着順というのも同じです。今回は十二月刊の作品から。
若林踏の一冊:藤崎翔『お梅は次こそ呪いたい』(祥伝社文庫)
人を呪い殺したいのに何故か相手を幸せにしてしまう人形・お梅が活躍するシリーズの第2弾だ。空中浮遊と胴体分離という新たな力を手にして奮闘するお梅の涙ぐましくも滑稽な姿が、前作にも増して笑いを誘う。この感じ、ドナルド・E・ウェストレイクの〈泥棒ドートマンダー〉シリーズのような「やること全てが裏目に出る、ついてない犯罪者」が出てくるクライムコメディに近い味わいがある。笑えるだけではなく、ミステリ的な騙しや伏線の技法を至るところに用いて驚かせる点も良い。読者をもてなすためのサービス精神に満ちた連作集だ。
酒井貞道の一冊:櫛木理宇『逃亡犯とゆびきり』(小学館)
ライターの主人公が犯罪ルポを分載で書くと、既掲載分を読んだ逃亡中の連続殺人犯の旧友が電話でヒント(セント・メアリ・ミードのミス・マープルに似たそれ)をくれ、意外な真相が立ち現われる——という話が六話入っている。家庭の荒廃、承認欲求、他者支配、共依存など個人や家庭の闇はもちろん、陰謀論による社会波乱すら描かれ、作品の射程がかなり長い。個の問題がSNS等のwebを介して社会に広がってしまう現代の世相を見事に切り取っている。邪悪な人物や関係性が大挙して出現するが、筆致がクールで、辟易せずに済むのも助かります。
千街晶之の一冊:倉知淳『猫の耳に甘い唄を』(祥伝社)
「この小説には〈犯人の書いた文書〉が登場する」「ただし内容が真実であるとは限らない」……倉知淳のファンならば、代表作『星降り山荘の殺人』を想起するに違いない但し書きが冒頭に掲げられている。しかも、作中の小説家のもとに届く怪文書めいたファンレターは『壺中の天国』を連想させる。その意味で極めて倉知淳らしい作品である。だが、この小説で最も倉知淳らしい部分とは……ああ、言えない、絶対言えない。ただ、本書のラストにそれがある、ぐらいなら言ってもいいだろう。この幕切れが漂わせるテイストはまさに倉知淳ならではだ。
藤田香織の一冊:金城一紀『友が、消えた』(KADOKAWA)
読みながら「あの頃」を何度も思い出した。小説現代新人賞を受賞した著者のデビュー作『レヴォリューションNo.3』から連なる、抜群の青春力を放つ人気シリーズ「ゾンビーズ」のメンバー南方が帰ってきた! 仲間たちとの約束を果たすため一浪し大学生になった南方は、ある日学食で見知らぬ学生から相談したいことがある、と声をかけられる。「君たちは困っている人間をほっとけないって聞いたんだ」。突然姿を消した友達を探して欲しいと懇願され、南方は動き出すのだが、その背景にある切実な熱に胸が疼く。13年ぶりの金城一紀、やっぱり凄い!