電撃小説大賞の遺作『妖精の物理学』、夢枕獏「キマイラ」シリーズ、『薬屋のひとりごと』5月ラノベは話題作が多数

電撃小説大賞の遺作『妖精の物理学』

 5月に刊行のライトノベルで最も関心を集めそうな作品が、電磁幽体の『妖精の物理学 ―PHysics PHenomenon PHantom―』(電撃文庫)だ。応募総数が長篇と短編を合わせて3819作品に及んだ第31回電撃小説大賞で〈大賞〉に選ばれた作品が、どのような面白さなのかといった興味ももちろんあるが、やはり作者がすでに亡くなって遺作になってしまったことが大きい。

 2024年11月の受賞作発表から1ヵ月後の12月12日に作者の急逝が伝えられ驚きを与えた。ライトノベルでは2006年に角川学園小説大賞〈優秀賞〉を受賞した『骨王 I. アンダーテイカーズ』(角川スニーカー文庫)でデビューした野村佳が、受賞作の刊行から4ヵ月後に亡くなり期待していたファンを残念がらせた。電磁幽体の場合は刊行前で、どのような内容かも分からないだけに、5月10日に発売されて読んで改めて悔しさを噛みしめることになりそうだ。

 特定の物理現象が少女の姿で具現した「現象妖精」が登場し、世界に恩恵と災害をもたらした。7年前に大崩壊してから復興に向かっている神戸で暮らす少年の前に、1500万人もの人間を殺したという妖精が現れ、逃避行を始める中で世界の秘密が浮かび上がってくる。ボーイ・ミーツ・ガールからのアクションとサスペンスが楽しめそうなファンタジー。まずは刊行を待ってその力量を確かめよう。

 話題性では、夢枕獏による「キマイラ・吼」のシリーズ最新巻『キマイラ聖獣変』(ソノラマノベルズ)も高いものがある。最初の『幻獣少年キマイラ』が刊行されてから43年続いてきた作品だが、最新巻は作者自身が「完結編」になると話しているから驚きだ。元気なうちにラストシーンに繋がる展開を先に描いて、ファンが寂しがらないようにしたとも言われている。異形の力を持った少年の遍歴を描いて多感な少年少女を引きつけてきたシリーズはどこに向かうのか。内容が気になるところだが、「この物語は、絶対に面白い」ということだけは間違いないだろう。5月20日発売。

 TVアニメの2期が放送中で、美貌の宦官と思われていた壬氏の秘密が明らかになる一方で、猫猫に危機が及ぶ展開にファンが釘付けとなっている日向夏『薬屋のひとりごと』シリーズに最新刊『薬屋のひとりごと16』(ヒーロー文庫)が登場。皇帝の手術が無事に終わって日常に戻った猫猫だったが、そこに「疱瘡」の発生が伝えられて対応に追われることになる。医療ものとしての醍醐味を味わえそう。アニメ第1期シナリオ集付き限定特装版ともども5月30日発売。

「このライトノベルがすごい!2025」で文庫部門の第1位を獲得したシリーズの待望の新刊も登場。雨森たきび『負けヒロインが多すぎる!8』(ガガガ文庫)で、放虎原ひばりの後任の生徒会長に立候補した馬剃天愛星(ばそり・てぃあら)が文芸部の温水和彦に推薦人を頼み、選挙戦に臨むがそこに意外な相手が立ちふさがる。八奈見杏菜や焼塩檸檬、小鞠知花といった「負けヒロイン」たちのドタバタ劇を楽しみつつ、誰か新しい「負けヒロイン」が登場するのか、そこに温水はどう関わるのかを見守りたい。5月19日発売。

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