毛利小五郎のかっこよさが倍増！？　『名探偵コナン 隻眼の残像』ノベライズはファン必読の一冊

　青山剛昌の漫画『名探偵コナン』を原作にした長篇アニメ『劇場版名探偵コナン』シリーズの第28作、劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像（フラッシュバック）』に早くもノベライズが登場。映画のシーンの説明や、長野県警の刑事たちの心情描写などがあって、合わせて読むと『名探偵コナン』シリーズをより深く楽しめるようになる。

　長野県警の捜査一課で刑事をしている大和敢助警部が雪山で何者かによって銃撃され、左眼を傷つけられ雪崩に巻き込まれた事件から10ヵ月。警視庁の改革準備室に勤務している鮫谷浩二がどういう理由からかその事件に関心を抱き、大和警部が復帰して担当した幾つかの事件で知り合った毛利小五郎に話を聞きたいと言って日比谷公園に呼び出す。

　小五郎にとって鮫谷は刑事時代の友人で、久しぶりの再会を楽しみに待ち合わせ場所へと向かったが、会う直前に鮫谷は何者かによって銃撃を受けて死亡。小五郎は捜査のために大和警部を訪ねようとしている高木渉刑事と佐藤美和子刑事について長野へと向かう。主人公の江戸川コナンも一緒についていこうとするが、ここで小五郎から映画の予告編にも使われた、「ついてくんな！　遊びじゃねぇんだ！」というあのセリフが飛び出す。

　コナンはいつも、小五郎を腕時計型の麻酔銃で眠らせ、その声色を変声機で再現しながら自分の推理を披露し事件を解決へと導く。かつては警視庁の敏腕刑事だった小五郎も、今では酒好きのへっぽこ探偵に過ぎなくなっていたものが、コナンの傀儡となることで"眠りの小五郎”という異名を持つ名探偵としてもてはやされている。

　長く続くシリーズにおけるお決まりのパターンと言えるが、『隻眼の残像』ではそうした構図になることを冒頭でピシャリと断られる。それどころか宣伝で小五郎が眠らないことがアピールされていて、果たして事件は解決されるのかといった興味を誘っていた。そうはいっても途中でコナンが合流し、いつもどおりに"眠りの小五郎”が活躍する展開になることをミスリードしているだけなのではといった想像もあった。

　結果は映画を見てのお楽しみとして、いつにも増して小五郎がカッコよく描かれていて、警視庁で拳銃にかけては誰にも負けない腕前の持ち主だったことが確認できて、小五郎のファンなら涙を流すくらいに感激して映画館を後にできる作品になっていることは強調しておきたい。ノベライズ『名探偵コナン 隻眼の残像』（著・水稀しま、原作・青山剛昌、脚本・櫻井武晴、小学館ジュニア文庫）ではラスト付近で、小五郎がコナンからある行動について聞かれて「バァーカ。ンな訳ねぇだろ！」と憎まれ口を叩いてからくるりと背を向けるシーンで彼の心情が綴られていて、映画で感じたカッコよさがさらに高まってジンとくる。

　ストーリーに関しては映画のとおりのノベライズだが、細かいディティールについては絵で見せて察してもらえない分、言葉による説明が行き届いている。例えば、作品の鍵となっている「司法取引」の範囲を拡大して「証人保護プログラム」のスタートも含んだ「刑事訴訟法」の改正案が、具体的にどのようなもので、どのような影響を引き起こすのかが分かる。

　改正案が通れば、組織犯罪や薬物銃器犯罪にだけ適用されていた「司法取引」の範囲が拡大され、取引に応じて減刑となる加害者も増える。事件の早期解決には繋がるが、被害者なりその関係者の心情は複雑だろう。そうした問いを投げかけてくる映画であることを、ノベライズを読んで改めて確認できる。

 「証人保護プログラム」については、「黒ずくめの組織」に追われている灰原哀がFBI捜査官のジョディから受けないかと勧められ、別人として生きなくてはならないこともあって逃げたくないと断った話が回想として綴られる。哀の場合は被害者だが、加害者が「司法取引」をして「証人保護プログラム」を受け、名を変え過去を断ち切っても罪の意識は残り続ける。そうしたことも、映画の重要な要素になっている。「刑事訴訟法」の改正を謀略の種にだけはせず、社会への影響も含めて描こうとしていることを感じ取りたい。

　日比谷公園で鮫谷を撃った犯人と同じようにフードを被った人物が、長野に現れ元太と光彦を襲うとしたところを毛利蘭が助けに入り、得意の空手で追い詰めていった場面で、あれだけ強い蘭がどうしてピンチに陥ったのかがスピーディーな展開でよく分からなかった人もいそう。ノベライズには、フードの男が持っていた、カバーで覆われた銃の銃床を踵で蹴ったはずが、そこに銃床がなく驚いて倒れてしまったと書かれている。読んで改めて蘭のアクションを確かめてみたくなる。