『チ。』で注目の詩人・ルクレティウスが後世に与えた影響とは? 『事物の本性について―宇宙論』に書かれた2100年前の科学的思考

『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』によれば、ルクレティウスの言葉は地球を絶対視しない宇宙論を唱えて異端とされ、処刑されたジョルダーノ・ブルーノに影響を与えていた可能性があり、モンテーニュの『エセー』を経て『ロミオとジュリエット』のシェイクスピアにも届いていたらしい。そしてガリレオにも。直接ルクレティウスの著作を愛読していたという訳ではなさそうだが、再発見を経てエピクロスや原子論が取り沙汰されるようになる中で、ガリレオもそうした考え方に傾倒していった。
そして、アメリカ合衆国の建国にもルクレティウスの原子が混ざり込んだ。独立宣言を起草し第3代大統領にもなったトマス・ジェファーソンは、『事物の本性について』のラテン語版を5冊も所有するほどの愛読者で、ルクレティウスの言葉が「無知と恐怖は人間存在に必要な要素ではないという確信を形成するのに一役買っていた」(『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』より)という。独立宣言に「幸福の追求」が権利として書かれたのはルクレティウス的な考え方の賜だといった味方もある。こうして生まれたアメリカが今、科学を否定し幸福どころか自由すらも保障されない状況に陥っているのは皮肉なことだ。
だからこそ、1965年刊行の『世界古典文学全集 21 ウェルギリウス・ルクレティウス』(筑摩書房)から独立する形で『事物の本性について』が刊行されたことは意義深い。岩波文庫からも『物の本質について』(樋口勝彦訳)が刊行されており、これらの原点に触れてルクレティウスの考えについて誰もが自由にどこまでも踏み込んで考えることができる。そして伝えることができる。
『チ。』の中でクラボフスキは、バデーニが書き残したルクレティウスの詩を読めることに「こうやって伝え書き残した誰かがいるからだ」と感じ、言葉を伝える大切さに思い至る。そして、バデーニから驚くような方法で託された言葉を「私の番なのか?」と考えて次の時代に渡し、その後の世界に変化をもたらした。現実の世界でも、ブラッチョリーニが再発見したルクレティウスの思索が、科学や文化に影響を与えて数々の成果をもたらした。
こうした「知」の探求とその継承が持つ意味を噛みしめ、次の時代へとルクレティウスに限らずさまざまな人の営為を繋げていくことが、『事物の本性について』を読み『チ。』を楽しんだ人が果たすべき役割なのもしれない。
次はあなたの番だ。

























