『チ。』活版印刷はなぜ“3大発明”の1つになったのか? “自分で考えること”を促した本の普及

「3大発明」の1つに挙げられる「印刷術」

魚豊『チ。 ―地球の運動について―(6)』(小学館)

 かつて――1450年から55年にかけて、西洋式活版印刷術の祖、ヨハネス・グーテンベルクが『聖書』のヴェラム(仔牛皮紙)刷本を作った際、わずか35部のヴェラム刷本のために、6000頭もの仔牛が殺されたという。

 これを大きな犠牲と考えるか、小さな犠牲と考えるかは人それぞれだろうが、いずれにしても、「活版印刷」という技術が社会の在り方を大きく変えたのは間違いないだろう(かのフランシス・ベーコンも、「火薬」、「羅針盤」とともに、「印刷術」を「3大発明」の1つに挙げている)。

 なお、活版印刷とは、判子のような形をした金属製の「活字」を組み替えることで、長い文章を大量に複製することを可能にした技術のことだが、そもそもグーテンベルク以前の「本」とは、基本的には人間が手で文字を書き写して作る――いわゆる「写本」のことを意味していた。むろん、木版の技術も古くからあったが、1文字1文字版木を彫っていく作業は、時間も手間も異様にかかるものである。

 それゆえ、15世紀半ば以前の「本」とは、一部の裕福な人間や知識人だけしか目にすることのできない、高価で稀少なものであった。だが、そんな閉ざされた状況を一変させたのが、前述のグーテンベルクによる活版印刷の発明――すなわち、「本」の大量生産による情報伝達の加速化だった、というわけである。

強い信念を持つ者たちの物語

 現在、NHK総合にて放送中の話題のTVアニメ『チ。 ―地球の運動について―』(毎週土曜23時45分より)でも、そんな「活版印刷」が、主人公たちの理想を叶えるための技術として登場する。

 原作は、2020年から22年にかけて、『ビッグコミックスピリッツ』にて連載された魚豊による歴史コミック。15世紀の「P王国」を舞台に、“異端”とされる「地動説」を研究する人々の信念(とその継承)が、時おり衝撃的な展開を交えながら描かれていく。

 活版印刷が登場するのは、その物語の「第3章」で、主人公はドゥラカという名の少女だ(余談だが、同作では、章ごとに主人公が変わる)。

 ひょんなことから地動説について記述された「本」を読んでしまった彼女は、「異端解放戦線」なる組織と関わることになる。そして、そこで出会ったある女性から大きな「感動」を受け継ぎ、活版印刷を用いた命賭けの“本作り”に参加することになるのだが……。

※以下、『チ。』のネタバレを含みます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)

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