「初めて本が読めた!」と読者大反響『32歳がはじめて本を読む』著者・かまど×みくのしん 名著に触れて起きたある変化

文学の楽しみ方がわかってきた
ーーかまどさんはみくのしんさんの読書を見ていて本の読み方が変わったと話していましたね。どういう変化がありましたか。
かまど:正直に言うと、僕はこの企画を始めるまで「文学が面白い」と思えたことがなかったんです。ミステリー、SF、ファンタジーなど、物語を楽しめる娯楽小説の方が好きでした。高校生の頃に、かっこつけて文学作品を読み漁ったこともありましたが、何かモジモジ言っているだけで面白くないなって。
みくのしん:めちゃくちゃ言うじゃん。
かまど:エレファントカシマシが好きだったので、ボーカルの宮本さんが好きだという文学作品を真似して読んだりしてたんです。読めなくはないけど、正直、何が面白いのかいまいちわからなくて、難しかった。びっくりするような大事件が起こるわけでもないし、予想もつかないような魔法が出てくるわけでもない。「これ、何を面白いと思えばいいの?」という状態でした。
みくのしん:意外だよな。かまどって本の面白さを全部知ってるのかと思ってた。
かまど:そんな人、この世にいないよ。「文学が面白い」と思えたのは、本当にみくのしんの読書を見てからですね。みくのしんを見ていると、一文一文の描写に立ち止まって、味わうようにゆっくり読むし、文章の中に人間を見出しながら、自分のこととして読んだりもする。
「自分もこういう読み方をしてみたい」と思えてからは、文学の楽しみ方が分かったような気がしますし、最近はそういった作品ばかりを探しています。やっぱり、その面白さを知るためには、「それを楽しんでいる人」を見るのが一番なんだなと思いました。
みくのしん:なんかずるくない? これ以上レベルアップしないでほしい。俺を置いていくなよ!
かまど:そんなことは知りません。
「純文学」は決勝前の文学かと……
ーーみくのしんさんは今後、読んでみたい本などありますか?
みくのしん:個人的に、映画やドラマになっている作品の原作を読んでみたいと思ってます。今までは本が読めないから、映像化されないとその作品に触れることすらできなかったんですよ。でも、もし本のうちに、楽しむことができたら……これはすごいことじゃないですか。僕は、又吉直樹さん原作の映画「火花」が好きなんですけど、もしかしたらその原作の小説が読めるようになってるかもしれないと思うと、ドキドキしますね。
あとは……知り合いから「みくのしんは純文学が好きなんじゃない?」って言われるので、いつか純文学をめっちゃ読めるようになりたいかな。
かまど:純文学なら、もうとっくに読んでるよ? 「走れメロス」「一房の葡萄」「杜子春」とかさ。
みくのしん:そうなの? 正直、何が純文学なのか、まったく分かってないんですよね。最初に「ジュン」ってついてるから、”準”決勝とか”準”優勝と同じ意味なのかと思ってたくらい。なんか、文学になる前の予選的な小説のことを言ってんのかと。
かまど:世の読書好きが聞いたら卒倒しそうな誤解だ。
みくのしん:かまどは「次はこれを読ませたい」って作品あったりするの?
かまど:みくのしんの好みとか相性とかを考えずに、個人的な思いだけで言うと、ラランドニシダさんの作品を読んでほしいかな。とにかく、僕が大好きなので。
みくのしん:かまどは、「ニシダさんの小説はすごい」ってずっと言ってるよね。
かまど:一作目の『不器用で』を読んだとき、衝撃だったんですよ。1ページ目を読んでいる最中から「これ、とんでもない才能を読んでるぞ!」と慌てて座り直して続きを読んだくらい。ニシダさんの選ぶ日本語の表現ひとつひとつが、かたっぱしから琴線をかき鳴らしてきてビックリしました。
みくのしんも気に入るかどうかは分からないし、ここまで言っちゃうとハードルが上がって楽しめないかもしれないんですけど……多分、僕がニシダさんの作品をそうやって楽しめたのも、みくのしんの読書を見てたからだと思うんです。
昔の自分だったら、「芸人さんがなんかすごそうな文学に挑戦していらっしゃるんだな」というだけで終わってたかもしれない。でも、今はそのすごさを感じ取る感覚器官が、みくのしんの読書を見てたことで芽生えてきた感じがあるというか。これはみくのしんのおかげで出会えた感動だと思うので、みくのしんにもその感動に付き合ってほしい気持ちがあります。
みくのしん:すごいこと言ってんな~! そんなこと言われたら緊張して読めないって!
「初めて本を読む」の次のステップは?
ーー本企画について、今後のご展望について教えてください。
みくのしん:展望ですか……。じゃあ、50年後の話してもいいですか?
かまど:こういうときに、半世紀先の話する人あんまいないだろ。
みくのしん:50年後の僕は、相変わらず本を読んでいて……その背景には、たくさん本が並んでいる本棚が映し出される。そこには「走れメロス」もあれば「杜子春」もあるし、見たことないタイトルも並んでいて、「あぁ、この男はこれだけの本を読んできたんだな」と思っていると、かまどが「おい、みくのしん」と声をかけてきて、そっと次に読む一冊の本を机に置く……。うん。僕がマンガだとしたら、これが最終回ですかね。
かまど:え? 俺、50年後までお前のそばにいないといけないの?
みくのしん:直近の目標でいうと、とりあえずは、自分で本屋さんに行って好きな本をパッと買ってさらっと読んで、「めっちゃ面白かったな」と言えるようになりたい……とかですかね。かまどは?
かまど:そうだなあ。「初めて本を読む」というタイトルが一発ネタみたいな感じなんで、今後調子よく続いていくかはわかんないけど……みくのしんがまだ付き合ってくれて、それを見て喜んでくださる読者の方がいるんだったら、まだまだ続けていきたいなと思っています。
これを書くのがもっと楽だったら、ライフワークにしたいんですけど、結構カロリーの高い作業なので連発できないんですよね。
みくのしん:そうなんだよな~。僕は本を読むだけなので楽なんですけど、かまどはそれを読者が楽しめるものに編集して記事にするために、めちゃくちゃな時間をかけてるんですよ。
かまど:やりたいことだけで言うと……例えば、夏目漱石の「こころ」って、もとは新聞で連載されていた作品で、毎日ちょっとずつ読むものだったわけじゃないですか。だから、同じように、みくのしんが毎日ちょっとずつ「こころ」を読む連載とかやってみたいんですよね。文庫本で一気読みしたときとは、違う読書がありそうな気がするし。
みくのしん:日刊みくのしんってこと? ごめんなさい。それをやるとかまどが死んじゃうのでやめてください。
かまど:最終目標としては、みくのしんが一本の小説を書いてくれたら嬉しいし、読んでみたいです。「本を読んだことがなかった男が本を書く」って、ひとつの到達点じゃないですか。
みくのしん:読むだけであんなに時間かかってるのに、書くとなったら年単位で時間かかると思う。かまどが編集してくれるならやろうかな。
かまど:ごめんなさい。それをやると僕が死んじゃうのでやめてください。

























