“次の雨穴”として出版業界が大注目? ダ・ヴィンチ・恐山(品田遊)とは何者なのか

ダ・ヴィンチ・恐山(品田遊)とは何者か

 謎の覆面ミステリ作家・雨穴の新作『変な絵』(双葉社)が売れ続けており、フジテレビ系の情報番組『めざまし8』が報じた“出版界のAdo”という言葉もSNSのトレンドになった。そんななか、同じくウェブメディア「オモコロ」のライターとしての一面を持つ「ダ・ヴィンチ・恐山」こと品田遊が11月7日、短編SF小説集『名称未設定ファイル』(朝日文庫)、ウェブマガジンの日記をまとめた『キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々』(朝日新聞出版)を同時に刊行。さっそくAmazonランキングで上位に食い込み、好調な出だしとなっている。「オモコロライター」であるほか、メディア露出の際に仮面をかぶっていることも雨穴と重なるが、果たしてどんな人物なのか。

 「オモコロ」というメディアについては、当サイト記事「雨穴、地獄のミサワ、ダ・ヴィンチ・恐山……次世代作家を輩出する『オモコロ』の強み」に詳しい。雨穴は2018年、同サイトでウェブライターとしてデビュー。現在29歳のダ・ヴィンチ・恐山は2016年より、オモコロを運営するバーグハンバーグバーグ社の社員として働きながら作家活動を続けているが、日本におけるTwitterの黎明期=2009~2010年ごろから、いわゆる“アルファツイッタラー”として多くのファンを抱え、大喜利イベント等でも活躍してきた。漫画原作者としても知られており、キャリアからして“次の雨穴”は失礼かもしれないが、近い環境にいる雨穴のブレイクも追い風に、ここにきて作家としての注目度も上がっていきそうな気配だ。

 そもそも小説家としての「品田遊」を見出したのは、『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』など数々のヒット作を手掛けてきた漫画編集者で、現在はクリエイターエージェンシー「コルク」の代表を務める、佐渡島庸平氏だ。同氏は自身のnoteマガジン『コルク佐渡島の好きのおすそ分け』にて、「品田遊は天才だ」「僕はツイッターが大好きで、色々な人のツイートを毎日だらだらと読んでいるけど、この人の小説を読んでみたい!と突き動かされたのは、品田遊に対してだけだ」として、小説家としての処女作『止まりだしたら走らない』(2015年)の刊行まで、5年近く口説き続けたことを明かしている。

 佐渡島氏は恐山の優れた観察眼を評価しており、今回出版された2作でも、その強みは遺憾なく発揮されている。短編集『名称未設定ファイル』では、「猫を持ち上げる動画」の炎上をモチーフに、SNSで散見される議論のエスカレートを現実に先んじて描き、またIoT化が進み、腕時計から結婚相手まで、あらゆるものがレコメンドされる近未来をシニカルに切り取るなど、ウェブライターらしい感性も光る。

 またライフワークの日記をまとめた『キリンに雷が落ちてどうする』では、「大人が『跳び箱』を楽しめる場所がほとんどない」「シャワーがお湯になるまで無駄に流れる水を有効活用できないか」のようなユーモラスな疑問や気づきから、SNSという仮想空間の適切な広さや人口密度、「培養肉」が一般化したときの倫理観の変化予想など、唸らされる考察まで、やはりさまざまな人や事象を観察する目の鋭さを感じさせられる。

 雨穴、ダ・ヴィンチ・恐山とも、もともとSNS/YouTubeで影響力を持つインフルエンサーであり、出版業界がなかなかリーチできなかった層にも作品を届けられるポテンシャルを持つ、現状ではまだまだレアな作家だと言える。今後も次世代のヒットメーカーを探す業界の熱い視線が注がれていきそうだ。

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