第45回日本SF大賞に市川春子『宝石の国』 人類とあらゆる生命の未来のビジョンを示す壮大なSF作品

第45回日本SF大賞に市川春子『宝石の国』

 候補作となった春暮康一『一億年のテレスコープ』(早川書房)も、やはりハードSFに分類される作品だ。第7回ハヤカワSFコンテストで〈優秀賞〉を受賞した『オーラリメイカー』でデビューし、短編「法治の獣」がSFファンの選ぶ星雲賞の国内短編部門、同作を含んだ中編集『法治の獣』が『SFが読みたい!〈2023年版〉』でベストSF2022国内篇第1位を獲得するなど、SF好きの間で確固とした地位を築いている。

 候補作も、人類の宇宙への強い関心を反映させた内容で、『宝石の国』や『銀河風帆走』と重なるところがある。揃って悠久の時間と空間を生き抜く生命への関心を抱かせてくれる作品と言える。どこか閉塞感が漂う現代において、広大無辺な宇宙へと向かう気持ちが高まっている表れかもしれない。

 候補作と共に候補者も話題になった作品が、池澤春菜『わたしは孤独な星のように』(早川書房)だ。声優として数々の作品に出演する一方、本好きでSF好きという才能を活かして書評を手がけ翻訳にも進み、創作も行うようになってそれが本書に結実した。きのこをテーマにした「糸は赤い、糸は白い」や、滅び行くコロニーで亡くなった叔母を弔うために旅をする女性を描いた表題作「わたしは孤独な星のように」など、こちらも想像力を豊かなバリエーションの物語に仕立て上げている。

 芥川賞作家の池澤夏樹を父、『海市』の福永武彦を祖父に持つという強烈なキャラクター性もあって、受賞したら結構な話題になっただろう。創作意欲は衰えておらず増すばかりのよう。いずれまた候補に挙がる作品を送り出してくるだけの力量を持ったSF作家だ。

  評論からは荒巻義雄、巽孝之編による『SF評論入門』(小鳥遊書房)も候補となっていた。創作を支える評論の分野で活躍する筆者たちが、『フランケンシュタイン』のメアリ・シェリーやアシモフ、クラーク、ハインラインといった御三家、そしてギブスンにイーガンといった海外作家について語り、小松左京、星新一、筒井康隆の日本SF御三家から伊藤計劃、そして藤本タツキと広く視野をとって評論している。受賞は果たせずともSFについて語る上で必要な視点を与えてくれる1冊だ。

 日本SF作家クラブでは、日本SF大賞の開催に際してSFの発展や浸透に強い影響を与えた人たちを讃える功績賞を贈っている。今回は、2024年に亡くなった方々で、『漂流教室』で知られる漫画家の楳図かずおさん、ミルチャ・エリアーデの翻訳で知られ東欧のSFシーンを伝えてきた住谷春也さん、『ソード・ワールド』『アイの物語』といった人気作を送り出した山本弘さんに功績賞を贈ることになった。

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