『タコピーの大罪』タイザン5の読切も! 恋愛からSFまで「ジャンプ+」読切集のクオリティが高い

「ジャンプ+」10周年記念読切集の注目作は?

 漫画アプリ「ジャンプ+」10周年記念企画として『読切集』(集英社)が1月4日、4冊同時刊行された。本書は「ジャンプ+」に掲載された読切を収録したコミックスで、1巻「情」、2巻「生」、3巻「変」、4巻「恋」というテーマに分類されている。

繊細な人間の機微が描かれる第1巻「情」

「情」は若者の繊細な内面を描いた物語が多い。原作:読谷あかね、作画:四ツ谷壇の『正しくない先輩』、黒川明の『言葉は水滴みたいに』、藤野ハルマ『なんにもない、なんでもない』、平野稜二の『勇者ご一行の帰り道』、三木有の『静と弁慶』が収録されているが、ジャンプ+で配信された時に読んで、鮮烈な印象を残したのが『静と弁慶』。

 なぎなたをいっしょに学んできた少女・船橋静と少年・波田弁慶が演舞競技の試合に参加する場面から始まり、二人の心情を紡ぎ出していく構成となっている。静止画の連鎖で独自のリズムを作り時間の流れを描く手法が秀逸で、物語を読むというよりはMVを観ているような音楽的快楽がある。こういう実験的な見せ方が試せるのも読切の良さだろう。

身体・性についても問いかける第2巻「生」

「生」はもっとも現代的で、ジャンプ+が存在しなかったら、世に出なかったのではないかと思う作品が多数収録されている。

 収録作は、遠田おとの『にくをはぐ』、モリエサトシの『16歳の身体地図』、澄ヒビトの『打ち切られ漫画家、同人イベントへ行く。』、吉野マトの『ミーシア』、棉きのしの『だめっ子みーちゃん』。

 配信時に大きな反響を呼び、今読んでも圧倒されるのが『にくをはぐ』だ。物語は小川千明という胸の大きな女性が動物を解体している場面をLIVE配信している場面から始まる。実は千明はGID(性同一障害)で、ホルモン注射を一年続けている。今すぐにでもSRS(性別適合手術)を受けたいと思っていたが、漁師の父親に本当のことが言えずに悩んでいた。本作は様々な角度から「生」というテーマに肉薄していく作品で、生きることは、食べることであり、自分の身体(性)を見つめることなのだと実感させられる。

『16歳の身体地図』も身体の話だ。元女子バレー部のエース・キリカと、彼女に憧れていたバレー部の女子生徒・美都の友情を描いた作品で、自分の「体の地図」を理解し、生理をどう受け入れるかが、大きなテーマとなっている。

ジャンプ+の懐の深さも感じさせる第3巻「変」

「変」はタイトルのとおり、オカルト&SFテイストの変な作品が多い。

 喜多川ねりまの『生贄ちゃん生還せよ』、○の『BLACK ―THE STORY OF MONSTER SYNDROME―』、ワートンの『シンプルイズベスト』、天願真太郎の『みことはこ』、屋宜知宏の『ヒトナー』が収録されているのだが、最もSFマインドを感じたのが『ヒトナー』。

 人間(ヒト)が未知の惑星に到着することで起こる騒動を描いたファースト・コンタクトものだが、知性と文明を持った獣民の側から体毛のないヒトの奇妙さを描いている。タイトルの「ヒトナー」はオタク用語の「ケモナー」(猫耳少女などの擬人化された動物のキャラクターを愛好する人々)をひっくり返したもので、劇中の獣人たちは、初めてみるヒトに対して好奇心と欲望を抱くのだが、オタクのあるあるネタを入り口にしてSF的アイデアを展開していく手腕が実に見事だ。

 一方、読む人によって評価が真っ二つに別れそうなのが、『BLACK ―THE STORY OF MONSTER SYNDROME―』。謎の巨大な怪物と戦う巨大ロボット・HOPEの部品工場で働く工員が主人公の物語だが、劇中で描かれるのはブラックな労働環境の苦しみをSNSに投稿し続ける主人公の姿。タイトルの通り画面は黒ベタが多く、暗くて救いのない内容で、漫画としては読みにくいのだが、作画やコマ割りの見せ方がとても前衛的で、最後まで目が離せない。こういう尖った作品が配信されたことに「ジャンプ+」の懐の広さを感じる。

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