科学の力の中にある“祈り”に胸打たれるーー直木賞受賞作『藍を継ぐ海』の到達点

直木賞受賞作『藍を継ぐ海』の到達点

 第三話「祈りの破片」は、本書のベストだ。長崎の長与町役場に勤める小寺の現在の部署は、都市計画課の住宅係。田之坂郷の外れにある空き家の中で、夜遅く光が見えたという電話が入り、調べることになる。という発端から、東野圭吾の「ガリレオ」シリーズのようなミステリになるかと思った。だが、空き家の中にあるものが明らかになると、物語は予想外の方向に転がっていく。かつて長崎で起きた大きな悲劇に、科学の力で立ち向かおうとした人間の姿が浮かび上がってくるのだ。ここから先の展開は書かない。是非とも物語を読んでほしい。科学の力の中にある〝祈り〟に、必ずや胸打たれるだろう。また、一連の事実を掘り起こした小寺が、生まれ育った町を少しでもよくしたいという、入庁当時の気持ちを取り戻してくれたのが嬉しい。人の想いというのは、こうやって繋がっていくのではなかろうか。

 第四話「星隕つ駅逓」は、北海道に落ちた隕石・娘の父親への気持ち・土地の歴史を巧みに組み合わせて、興趣に満ちた話に仕立てている。ラストの表題作は、ウミガメの卵を盗んで孵化させようとした、海辺の町の少女が抱えていたわだかまりが、ウミガメ監視員や、やってきたカナダ人の話によって溶けていく。どの作品もレベルが高く、さらにさまざまな化学の知見を得ることができた。直木賞受賞も納得の一冊なのである。

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