小説家・今野敏が「困っている人を助けるヤクザ」を書く理由とは? 『任侠梵鐘』刊行記念トーク&サイン会レポート

小説家・武道家の今野敏(こんのびん)さんが2025年1月8日、新刊『任侠梵鐘(にんきょうぼんしょう)』(中央公論新社)を上梓した。これを記念し1月18日、京都にある大垣書店本社にて発売記念トークショー&サイン会を開催。ストーリー作りのエピソードなど、ここだけの裏話を語った。
「除夜の鐘がうるさい」というニュースに驚いた

ファンの前に姿を現した今野さんは黒ずくめのファッションを着こなし、武道家らしい威風堂々としたたたずまい。凄みが効いた声で「ここへ来るために新幹線に乗ろうとしたら沿線火災で不通になってしまったんです。幸い1時間ほどで復旧しましたが、人生、安心できる日はないですね。皆さんも気をつけてください。今日もこれから何が起きるかわからないですよ」と語り、スリルと笑いに包まれたトークショーは幕を開けた。
新刊『任侠梵鐘』は任侠シリーズの第7弾。このシリーズでは毎度、義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本(あきもと)雄蔵の元にいっぷう変わった経営再建の相談が持ち込まれる。過去には傾きかけた出版社や映画館、オーケストラなどを救ってきた。
今回の舞台は住宅地の神社と寺。住民から除夜の鐘がうるさいとクレームをつけられた住職は、「この国は滅びるぞ」と怒り心頭。神社と寺を存続させようと阿岐本組が奮闘するも、警察に通報されたり、追放運動が巻き起こったり、大ピンチに陥るという物語だ。梵鐘(釣り鐘)をストーリーのシンボルにしようと考えたきっかけを、今野さんはこう語る。

除夜の鐘がうるさいとは、なんとも世知辛い。そう感じた今野さんは、梵鐘を物語のキーアイテムに据えようと決めたという。
「さらに別の日、児童公園の子供の声がうるさいとクレームがきて、公園を閉じたというニュースもありました。かつては当たり前にあったものが受け容れられなくなくなっていく世の中ってなんだろう。これから日本はどうなってしまうんだろう。そんなふうに思っているうちに、プロットができていったんです」
街からなくなってしまうと寂しいものを残したい

「任侠シリーズの第1弾、ヤクザが出版社を救う『任侠書房』(『とせい』改題)が発売されたのが2004年10月です。およそ20年が過ぎています。このシリーズは最初『ヤクザが文化事業をテコ入れする設定、おもしろいんじゃないか』と思って書き始めました。ただ、自分自身が年齢を重ねるうちに、だんだん『街からなくなってしまうと寂しいものを残したい』という気持ちが強くなってきたんですよね」
作数を重ねるうちに温故知新スタイルへと変化していった任侠シリーズ。次の作品も気になるところだ。
「経営難に陥ったラジオ局を救う“任侠ラジオ”という話を考えてみたんです。そのラジオ局から暗号が放送され、その暗号をキャッチした特殊部隊が攻めてくるという。この話を担当者にしたら『スケールが大きすぎて、もう任侠の世界じゃないですね』って」
任侠ラジオ、とても面白そうだが、確かに地回りの任侠の世界では収拾できない話である。
「ただ、発想をどこまでも飛躍させるのが僕の書き方でもあります。『署長シンドローム』という作品では、署長室を核武装したらどうだろう、と思いついたんです。打ち合わせのときに話したら『そんなバカな』と笑われたので、悔しくて本当に成立させましたよ」
























