書店員が選ぶ絵本新人賞『ライオンのくにのネズミ』さかとくみ雪インタビュー「文化が違うと、お互いの普通は全然違います」
「書店員が選ぶ絵本新人賞2024大賞」を受賞した絵本『ライオンのくにのネズミ』(さかとくみ雪・著)が中央公論新社から刊行された。読売新聞・中央公論新社が主催する同賞は、出版未経験者による未発表の絵本作品を対象に、全国の書店員が選考する新人賞。第2回目となる今回は、422作品の応募作の中から選ばれた。
『ライオンのくにのネズミ』は、ネズミくんが父親の転勤のためにライオンの国に移住する物語。異文化の新たな環境に馴染めず、ライオンたちが怖くて仕方ない彼は、学校に行くのも嫌になってしまう。しかし、あることをきっかけに見える景色が一変し、周りのみんなに心を開いていくーー。
著者のさかとくみ雪氏は、宮城県出身でドイツ・フランクフルト在住のデザイナー。日本で歯科技工士やプログラマーなどの職を経験後、国内で知り合ったイタリア人のパートナーとの結婚を機にドイツへ移住した。現地から遠隔で武蔵野美術大学通信教育課程を卒業し、その後も絵本やアートの制作を続けた。本作『ライオンのくにのネズミ』制作の背景には、ドイツで通った語学学校の日々、そして現地で子育てをしている経験が反映されているという。日本に一時帰国中のさかとくみ雪氏に刊行記念インタビューをした。(篠原諄也)
ライオンの国はドイツがネタになっています
ーーこのお話はどのように生まれましたか。さかとく:ドイツに移住後に通った語学学校の経験をベースにしました。当初はドイツ語が全然できなかったんです。それでおじけづいていたんですが、親切なクラスメートに出会ったりもすることもありました。
ーー語学学校ではどのような日々だったでしょうか。
さかとく:世界が変わるような感覚がありました。クラスメート30人ほど全員の出身国が被っていなかったんです。母国語を数えてみると、20か国語もありました。こんなにいろんな国の人と席を隣にするなんて初めてのことで、すごく刺激になりました。
ーー絵本の中では、ネズミくんがライオンの国に移住します。ネズミくんは、体が大きなライオンを見て、怖くなってしまいます。
さかとく:ライオンの国はドイツがネタになっています。うちの夫は身長が170センチほどあるんですが、ドイツの人たちは体が大きいので、自分が小人のように感じると話していました。それが反映されていると思います。
ーーキャラクターはどのように造形しましたか。
さかとく:小・中学生の頃、ドイツのサッカー選手のオリバー・カーンを見て、ライオンみたいだなと思ったことがあって。それでドイツの人たちに対して、ライオンのようなイメージがありました。
そしてドイツでは、小さな子どもや赤ちゃんを見ると「かわいいネズミちゃんね」という表現をするんです。私の娘が赤ちゃんの時も、よくそのように声をかけられました。絵本ではネズミくんがライオンくんにガオーと吠えられて泣いてしまうシーンがあるんですが、その後に他のライオンのおばあちゃんに「あら、かわいいネズミちゃんだこと」と言われるエピソードも考えていました。結局、ページが足りなくて、入れられなかったんですけど。
ーーネズミくんの境遇のように、異文化の中で子どもたちが暮らす時、どのように感じるものでしょうか。子育てをしていて、何か思うことはありますか。
さかとく:私たちはフランクフルトに定住しているんですけど、日本からの駐在員さんの家庭は、生活が慣れてきたと思った頃には次の転勤地に引っ越すようなことも多いようです。それについていく奥さんやお子さんは大変だろうなと思って。最近、ドイツ語ができなくて日本に帰りたいと泣いている子がいるという話も聞きました。
ーーネズミくんは両親が熱心にライオン語を勉強する様子を見て、自分だけが取り残されたような不安を感じてしまいます。
さかとく:パパとママはライオンの国に来られて、大きなチャンスを掴めてよかったと思っています。でもネズミくんは別に来たかったわけじゃない。子どもは自分で生活の場を選べないんです。そういう不安は大きいだろうなと思います。親の視点だと、外国で頑張ったらバイリンガルの帰国子女になれてすごいじゃん、と思ってしまうんですが、子どもの側はとても大変だろうなと思うんです。