【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー 陰陽師×拝み屋バディのファンタジーなど、注目の新刊をピックアップ

【連載】12月の嵯峨景子ライト文芸新刊レビュー

谷夏読『この恋だけは推理らない』(東京創元社)

 東京創元社×カクヨム学園ミステリ大賞の大賞受賞作。17歳の岩永朝司は「彼女いない歴=年齢」なのに“恋愛の神様”と呼ばれ、見知らぬ生徒たちから恋愛相談を受けている。ある日、彼の元に小井塚咲那という生徒が現れた。恋愛小説家として活動中だが新作が書けない咲那は、朝司に小説のネタになりそうなコイバナを聞かせてほしいと頼み込む。そこで朝司は、情報を提供する代わりに自分を手伝ってほしいと取引を持ちかける。朝司の元に持ち込まれた恋愛相談を、咲那が助手として解決することになるがーー。

 とある目的のために“恋愛の神様”を続ける朝司と、スランプ中の恋愛小説家がタッグを組み、上城北高校の生徒が関わるさまざまな恋愛問題の奥に潜む真実を暴き出す。マンガとアニメが大好きで、コミュ障のオタク少女がヒロインの青春学園ミステリ……と途中までは王道の展開をみせる物語は、ある一文以降がらりと様相が変わり、それまでとは異なる景色を見せていく。その転換がなんとも鮮やかで、思いもよらぬ方向に進む物語に読者はぐっと引き込まれるだろう。作者による見事な仕掛けと、切なくも美しいラストシーンに心が震える、極上の恋物語である。

道草家守『龍に恋う7 贄の乙女の幸福な身の上』(富士見L文庫)

 人気和風ファンタジーの最新刊。神に捧げる贄の子として育てられた過去がある少女・珠は、あやかしが見える体質ゆえにトラブルに巻き込まれ、仕事が長続きしない。寒空の帝都で途方に暮れていたところを、口入れ屋「銀古」の店主・銀市に救われる。珠はあやかしにも仕事を斡旋する「銀古」で住み込みとして働くことになった。不思議な髪色をした謎めいた銀市の正体は、人間の母と龍の父の間に生まれた半妖だった。珠はさまざまな“人ならざる者”たちと関わりながら、自らの居場所を見出していく——。

 第7巻は銀市の過去に迫る「半妖編」の完結巻にあたる。大きな危機を乗り越えて日常を取り戻した銀市と珠は、休暇を取って冬の軽井沢に出かけることに。物語は二人の微笑ましい道中と、旅の途中で出会う妖怪と人間の種族を超えた恋模様を交差させながら進む。銀市は己が抱える龍の業と両親の過去に向き合う覚悟を決め、珠は時の流れも生き方も異なる人とあやかしであっても、最後まで彼に寄り添いたいと願う。珠と同じ贄という境遇だった銀市の亡き母と、龍である父の悲しい過去を知ったからこそ、二人の覚悟と互いへの想いはより一層深まるのである。異類婚姻譚の醍醐味が凝縮された、甘やかなで幸せな余韻を残す一冊だ。

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