『まどマギ』『おお振り』など手がけるアニメーター・谷口淳一郎に聞く、仕事の流儀とキャラクターデザインの手法

アニメーター・谷口淳一郎に聞く仕事の流儀

草野球が最高の気分転換

――谷口先生は子どものころからスポーツマンだったそうですね。

谷口:小学校のころから水泳や野球をやっていて、中学では卓球部でした。高校ではサッカー部とアニメーション研究会をかけ持ちしていましたね。

――かなり多忙な学生時代を過ごしていたのですね。

谷口:なんでもやりたがりなんです。父親もバイクに乗ったり、絵を描いたり、写真を撮ったり、陶芸をやったりといろんな趣味を持っていたので、その影響だと思います。勉強はあまりしなかったので、家にいるのが嫌な子どもでした(笑)。

――野球と言えば、谷口先生は現在も草野球チームにも所属しておられると聞いています。

谷口:アニメリーグというアニメ業界の野球チームの大会があって、動画工房が母体のチーム“ハスラーズ”として出場しています。もともとは、球をバットでかすりもしないということで“カスラーズ”だったそうです。しかし、カッコ悪すぎるということでハスラーズに変わったのだとか。母体となる会社は変わっていますが、アニメリーグの創成期から50年くらい続いている歴史あるチームです。

――なんと、一部のプロ野球のチームよりも歴史がありますね(笑)。アニメーターはインドアなイメージですが、なかなかアウトドアですね。

谷口:アニメリーグに出るチームは今ではかなり減ってしまい、数をしっかり把握できていませんが、それでも9くらいのチームがあるのかな。僕が今やっているスポーツは野球ぐらいですが、前日はバッティングセンターで練習してから出場します。

――ポジションは何を務めていますか。

谷口:ファーストをやっています。ただ、あまり真面目にやりすぎるとよくないんです。試合中にこけてしまい、右手を負傷したらアニメーターとしておしまいですから。右手は必ず死守します(笑)。

――安全第一ですね。そんな負傷のリスクはあるかもしれませんが、アニメ業界では今も野球の文化は盛んなのですね。

谷口:ただ、若い子が野球離れで入ってこないので、全体的に年齢層が上がっているのが悩みです。だんだんシニアリーグみたいになっていますね。夏場なんかみんなヘトヘトで、熱中症注意報が出たりしたら死人が出るんじゃないかとヒヤヒヤします。今だとコンプライアンスの問題でダメだと思いますが、以前は徹夜明けで試合に来る人もいっぱいいましたよ。

――『おおきく振りかぶって』『おおきく振りかぶって~夏の大会編~』など、野球を題材にした作品にも関わっていますね。野球の経験は生かされているのでしょうか。

谷口:もちろん。やっていない人よりも、試合のルールや技術的なことがわかりますからね。ちなみに、うちのチームにはバリバリ高校球児だったアニメーターがいます。現在、当社の主力アニメーターの一人ですが、体育会系の人は今でも結構いますね。アニメーターと聞くとインドア派なイメージはあるかもしれませんが、アウトドア派も少なくない業界だと思います。

人材育成に取り組むのは動画工房の伝統

――谷口先生は『【推しの子】』の2期17話に作画監督として参画されていまし、同作には“作画育成監督”という役職でも参加されています。これは動画工房の社内にある新人育成の役職なのでしょうか。

谷口:アニメスタジオの社内で社員を育てる仕組みは、昔からどこのスタジオにもあったと思いますが、それに肩書を付けたものです。

――具体的にどんな指導をしているのですか。

谷口:上がってきた原画に手を加えてアドバイスをしたり、アニメーターとしての仕事の仕方、特にペース配分のコツを教えています。アニメーターは、ともすれば際限なく絵を描き込んでしまったり、時間をかけたりするので、月にどれだけの枚数を上げないといけないといった話もします。

――現在の新人を見て、どのように感じられますか。

谷口:僕らが新人のころよりも絵はかなり上手くなっていますよ。ただ、それに比例して作品自体のクオリティも上がっているので、技術はより高いものを求められる機会が多いです。何しろ、劇場クラスの映像をテレビで放映していますからね。新人は絵が上手くなったとはいえ、僕らのころよりもやっていることは大変です。

――確かに、アニメの作画の緻密さは凄まじいものになっていますよね。あれほど描き込まれた絵を動かすのですから、アニメーターの仕事の難しさは想像を絶するものがあります。

谷口:『【推しの子】』を見ればわかりますが、線が多いですし、緻密さも求められるので、1日で上がる原画や動画の数は、かつての何分の1になっています。新人に求められるスキルは本当に高いですよ。僕なんか、自分のことを棚に上げて厳しいことを言いますが、心の中では、今、新人じゃなくてよかったなと思っています(笑)。

――新人アニメーターと向き合いながら、ご自身の仕事も手掛ける谷口先生のますますの活躍に期待したいと思います。最後に、今後の仕事について教えていただけますか。

谷口:当社は年間3~4タイトルを制作していますので、社員としてその手伝いをしつつ、2025年には『まど☆マギ』の劇場新作が控えています。『まど☆マギ』には今まで通り関わっていく予定です。当社のタイトルでは、『夜クラ』の放映はすでに終わっていますので、次の企画も進んでいます。ぜひ、楽しみに待っていただけるとありがたいです。

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