【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー 『わたしの幸せな結婚』顎木あくみの新シリーズも

【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー

仁科裕貴『識神さまには視えている 河童の三郎怪死事件』(メディアワークス文庫)

 『座敷童子の代理人』シリーズなどで知られる著者が手掛ける最新作。時は明治39年。かつては高級官僚だった陰陽師だが、時代の移り変わりと共にその地位も変遷し、今では怪異がらみの事件を解決して治安を維持する役割を担っている。

 ある日、泳ぎが得意なはずの河童の溺死体が見つかり、軍属陰陽師の犬神朔也が事件を担当することになった。事故死なのか他殺なのか、捜査に苦戦する朔也の前に、強力な助っ人が現れる。経済的な理由で養女に出され、7年もの間没交渉だった実妹の望月詠美が、召喚の儀で呼び出された高位の識神の巫女となったのだ。識神の叡智を手に入れた詠美は河童の死体を解剖し、常人離れした知識と鑑識術で事件を解決に導くが……。

 本作は帝都を舞台に、陰陽師と巫女の兄妹がバディを組むあやかしミステリーである。河童の怪死や謎の狐火、天狗のたてこもりなどさまざまな怪異の現場で、詠美は鑑識術を駆使して事件の奥に潜む真実を暴く。当初は微妙に距離がある朔也と詠美が、調査を通じて少しずつ歩み寄っていくコミカルな描写が楽しいが、物語にはさらなる捻りが加えられている。作中に漂うほのかな違和感の正体は一体何なのか。妖怪にまつわる謎解き要素とあわせて、より大きな謎を楽しみたい。

白川紺子『龍女の嫁入り 張家楼怪異譚』(集英社)

 『後宮の烏』が大ヒット中の著者の初単行本。成都の高級旅館、張家楼の主人・琬圭は体が弱く、これまでに幾度も生死の境をさまよってきた。珍しく気分のよい日に市に出かけたところ、見知らぬ道士に声をかけられる。琬圭は幽鬼を引き寄せる体質ゆえに、病がちになっていると言う。その後、再び体調を崩して寝込んだ琬圭だが、道士から手渡された鱗のような霊薬によって一命を取りとめることが出来た。

 回復した琬圭は、父から思わぬ縁談話を聞かされる。相手は道士の娘、心寧。息子の命を救ってくれた恩人に父は大いに感謝し、戸惑う琬圭をよそに結婚話を進めていった。やがて現れた花嫁は天女のように美しいが、不思議な雲を乗りこなし、風や雷をも操って琬圭を驚かせた。実は、小寧は「人」ではなく、龍王・洞庭君の血を引く娘だったのである……。

 龍宮育ちで人間界のことがまだよく分からない小寧は、たびたび突飛な言動を取るものの、琬圭は持ち前の鷹揚さで状況に順応して、この不思議な娘を受け入れる。また、幽鬼を引き付ける体質に加えて好奇心が強い琬圭はたびたび命の危険に晒されるが、小寧は文句を言いつつも彼を助けに行くのだった。飄々とした琬圭のもとで、龍にも人にもなれずに孤独を抱えた娘が居場所を見出す、美しくも愉快な中華退魔譚である。

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