経産省の書店支援策、図書館との関係に言及ーー地方書店店長「地元の本屋から仕入れる仕組みを」

■経済産業省が書店を支援、その中身は?

ミケーネ店内の雑誌のコーナー。秋田県は雑誌の発売が1日遅れることが多いが、出版社の定期購読に申し込めば発売日に届く。これも羽後町のような地方にとっては痛手になる。「定期購読の案内が、雑誌の中に載っているくらいですからね。書店でわざわざ買ってくれる人は減少するでしょう」と、阿部店長。写真=背尾文哉

  連日のようにニュースになっている、書店の減少問題。出版文化産業振興財団の調査によれば、書店が1店もないいわゆる“無書店自治体”は全体の約27.9%となっており、知識のインフラが失われつつあることへの危機感を抱く人も増えている。

  そんななか、経済産業省はかねてから書店の振興策を打ち出すことを明言していたが、活性化のための課題や骨子が判明したと10月4日付の読売新聞オンラインが報じた。概要のなかで、公共図書館と書店の関係についても言及されている。

 図書館と新刊書店が競合することはままあり、以前からその問題が指摘されてきた。具体的には、村上春樹や東野圭吾などのベストセラー作家の新刊を、図書館が複数冊購入することがその代表的なものである。

■図書館の“無料レンタルショップ化”は問題

大阪の十三駅の再開発では、阪急阪神不動産と髙松建設が公共図書館と学校図書館が相互連携を図り、国内初の図書館モデルを核として、地域コミュニティを育む拠点を目指すプロジェクトを2026年にスタートする予定だ。

  こうした新刊が図書館に入ると、瞬く間に貸出し希望者が殺到し、貸出しの予約待ちを受け付けるほどの状態になる。以前に記者が目にした例では、村上春樹の新刊に10人待ちという例があった。

  いくら無料で借りられるとはいえ、果たして、10人目の人のもとに本が貸し出されるのはいつになるのだろう……と考えてしまう。そこまで待ったら買ったほうが早いじゃないか、と思うのは記者だけではないだろう。

  こうした公共の図書館の“無料レンタルショップ化”が書店に少なからずダメージを与えている可能性は、今後、検討すべきだろう。また、図書館は快適なスペースとサービスがあり、本を借りずとも勉強や新聞のチェックなどで毎日のように通う人は結構いる。

■図書館は本を地元から仕入れるべきだ

「ミケーネ」の店名はミケーネ文明に由来する。「ドイツの少年シュリーマンが、子供の頃に読んだトロイの木馬の本をもとに発掘したところ、ミケーネとトロイアが発見された。一冊の本が少年を大きく変えたという本を読んで、書店をやるなら店名をミケーネにしようと思った」と阿部店長。写真=背尾文哉

  書店と図書館はライバル関係ではなく共存共栄の関係を築いていくべきだと思うが、秋田県羽後町の個人経営の書店「ミケーネ」の店長、阿部久夫氏はこう話している。

 「せめて、公共的な図書館や病院、学校などで使う本は、地元の書店で買って欲しいですね。図書館にある本は図書館流通センターなどから仕入れている自治体も多いと聞きます。また、学校の教材、学習参考書のチャートなども書店を通さずに直に出版社と取引している例もあります」

  指摘の通り、図書館や病院、学校が毎月購入する本の金額はかなりの額になる。これが地元の書店に落ちれば、地域振興につながるのは間違いない。そして、阿部氏はこうも続ける。

 「ありがたいことに、羽後町にある羽後高校は、学校図書や参考書を当店から買ってくれています。本の値段はどこで買っても同じなのだから、自治体はせめて地元から仕入れるべきではないでしょうか」

  同様の指摘は、記者がこれまで取材した他地域の書店主からもあがっていた。地元で手に入るものは地元で買う。例えば、地方の企業や役所は、文房具などの消耗品はネット通販ではなく地元の文房具店から買う。こうした小さな心がけが、地域になくてはならない小売店を守ることにつながっていくはずだ。

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