印刷最大手・大日本印刷 書店開業支援サービス開始のなぜ? “本との出会い”の場の減少は阻止できるのか

■大日本印刷が書店開業を支援

 印刷業界最大手の大日本印刷株式会社(DNP)は9月11日、宿泊施設などの書店業以外の事業者に対し、従来のサービスに“本”を組み込んで利用者の体験価値を高める、書店開業支援サービスを開始すると発表した。書店以外の各種施設で本を販売することによって、地域の住民などが本を買う場所を提供。国内の書店減少や、書店のない自治体の増加による課題解決にも貢献したい考えだ。

 また、このサービスの導入第1弾として、北海道札幌市に9月19日にオープン予定である、「定山渓第一寶亭留翠山亭」内の温泉と読書を楽しむ空間「風呂屋書店」の開業を支援することも発表した。この書店は約2,500冊の書籍を閲覧・購入でき、宿泊者は無料で利用可能。宿泊者以外でも1100円(税込)の入場料を払えば利用できる。

 昨今、書店が全国的に減少しており、2024年3月時点で地域に書店が1つもない自治体は全国の27.7%、482自治体にも及んでいる。その一方で、店主がこだわりを持ったインテリアを備え、選書にも特色がある小規模な書店が各地に誕生するなど、書店開業のニーズが高まっている状況でもある。

  大日本印刷は従来の印刷業務の傍ら、グループ会社の丸善雄松堂や丸善ジュンク堂書店などと連携して、本のある場づくりや図書館設立の支援に取り組んできた。そして、本を媒介としたコミュニケーションなどの研究やビジネス開発などにも熱心に取り組んできた実績がある。今回の支援サービスは、長年にわたる活動を通じて培った考え方やノウハウを生かしたものになっているという。

■書店減少の問題に一石を投じる機会となるか

 書店に注目が集まっている一方で、従来の書店経営のビジネスモデルにも問題は少なくない。大日本印刷によれば、開業へのハードルは依然として高いことは間違いないようである。特に、書店経営のシステムは専業を前提として設計されている。そのうえ、本の仕入れ条件の厳しさ、利益創出の難しさなども課題である。筆者が知る限りでも、書店経営に興味はあってもこうした条件ゆえに開業に至らず、断念する人がいた。

  今回の大日本印刷の取り組みは、対象を書店業以外の事業者に限定しているものの、かなり手厚いバックアップが特徴であるように感じた。具体的には、本を販売する際に必要な企画・運営業務まで大日本印刷が代行、そして支援を行うという。書店のコンセプト設計から設計・施工、選書、本や関連物販の仕入れ、本を通じたコミュニケーション施策など、多岐にわたるサービスを提供すると発表している。

  大日本印刷は、この支援サービスの2026年度までの累計売上は、5億円を目標としている。今回のような宿泊施設のほかに、サービス付き高齢者向け住宅、飲食店、オフィス、ビジネスラウンジ、リゾートマンションなどにサービスを提供することを想定しているようだ。ここ数年で、地方はもとより、都心でも老舗の書店が閉店する事態が起こっているが、このサービスがそうした現状に一石を投じることになるか、注目される。

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