涼宮ハルヒは偏在するーーライトノベル&アニメ業界を席巻した“トリックスター”が今も支持され続ける理由

涼宮ハルヒが今も支持され続ける理由

 結果、『このライトノベルがすごい!』では、初年度の2005年に1位を獲得し、続く2006年は6位に入った。2007年と2008年は2位でライトノベルとしての支持の高さを見せた。この影響は、サークルでメンバーがわちゃわちゃするタイプの作品として、葵せきな『生徒会の一存』のような後継を生んだ。SF的なシチュエーションの上で男子が事態の解決に勤しむという部分では、鴨志田一『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』も後継に当たるかもしれない。

 TVアニメ化で人気が爆発している雨森たきび『負けヒロインが多すぎる!』も、巻き込まれ型の男子が女子たちの問題解決にあたるという構造に、「涼宮ハルヒ」シリーズの流れを見て取れる。影響は絶大だ。

 もっとも、「このライトノベルがすごい!」で2007年に「涼宮ハルヒ」を抑えて1位となった支倉凍砂『狼と香辛料』や、2008年に1位の賀東招二『フルメタル・パニック!』が、「涼宮ハルヒ」のような一般層の認知を得ているかは判断に迷うところ。「涼宮ハルヒ」シリーズの場合は、2006年4月から放送されたアニメシリーズの威力がやはり大きかった。

 最初の放送では、『涼宮ハルヒの憂鬱』から始めず、『涼宮ハルヒの動揺』に収録の短編「朝比奈ミクルの冒険 Episode 00」から放送して、作品をあまり知らない人の驚きを誘った。そして始まった本編で、ハルヒだけでなく長門や朝比奈といった癖の強いキャラクターを見せて虜にした。エンディングで主要キャラクターが踊る映像も話題になった。「ライブアライブ」のアニメではハルヒがギターを弾きながら歌うシーンを丹念に描いて、アニメでライブを描くことの面白さをファンの間に浸透させた。

 今、アニメでダンスは作画力を見せるような意味合いや、一般人によるダンス動画制作を誘って作品名を浸透させるきっかけ作りを狙って頻繁に作られている。アニメでライブは『けいおん!』から『BanG Dream!』『ぼっち・ざ・ろっく!』『ガールズバンドクライ』といった後継を生み出し、バンドアニメという一大勢力を形作るまでになっている。

 ライトノベルとアニメに様々な影響を残し、「踊ってみた」「歌ってみた」から始まるUGC(ユーザー生成コンテンツ)の大元にも当たって文化的な貢献も大きいことが、「涼宮ハルヒ」シリーズを発表から20年を超えた今もコンテンツとして、あるいはキャラクターとして遍在させている。11月29日発売の最新巻『涼宮ハルヒの劇場』がシリーズとしては4年ぶりで、全編が描き下ろしではなくても、新作が読めることに大きな反響があるのがその証明だ。

 ここで、上遠野浩平の『ブギーポップは笑わない』や時雨沢恵一『キノの旅』、そして『狼と香辛料』のような長く続いているライトノベルが、次々と再アニメ化されたような動きが「涼宮ハルヒ」シリーズにもあれば、2006年や2009年のTVアニメ、そして2010年の映画『涼宮ハルヒの消失』を見逃している若い世代にも、存在を植え付けいっそうの広がりを得ることだろう。

 そして谷川流による本格的な執筆再開があれば、これまでのファンも含めて世界はおおいに盛り上がるだろう。どちらも先は見えないが、期待し続けるだけでも楽しくなる。それだけの存在感を持った作品だということだ。

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