連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2024年7月のベスト国内ミステリ小説

7月のベスト国内ミステリ小説

藤田香織の一冊:呉勝浩『法廷占拠 爆弾2』(講談社)

 ジュリーとは似ても似つかないが、読者の心を鷲掴みにした「憎み切れないろくでなし」スズキタゴサクが帰ってきた! 今作は、前作『爆弾』で、死者九十八名、重軽傷者五百名を超える連続爆破事件の容疑者となったスズキの初公判が開かれた東京地裁の一○四号法廷を、被害者遺族の男が占拠することから展開。読みどころは多々ある。劇場型犯罪そのものの手に汗握る警察との交渉、犯人と警察、それぞれの感情と事情。やはり際立つスズキタゴサクの異常性。緊迫した立てこもり状況からの後半は、素晴らしく嫌らしい。いいぞタゴサクもっとやれ!

橋本輝幸の一冊:潮谷験『伯爵と三つの棺』(講談社)

 作品ごとに雰囲気を変えて読者を楽しませてくれる著者が、今回は歴史ミステリに挑戦した。舞台は欧州の継水半島なる架空の地域、フランス革命が起こるころ。老いた語り手が、若かりしころに貴族の三兄弟と結んだ友情と、彼らが深く関わる殺人事件の思い出を書きつづる……。

 読みやすくも読みごたえがあり、最後まで気が抜けない。もちろん歴史ミステリの醍醐味たっぷりだ。時代の変化にともなう哀愁が切ない。身分制度の中で育まれる登場人物たちの関係性も、この時代が舞台だからこそ描けるものだろう。趣向とドラマが噛み合った快作だ。

杉江松恋の一冊:潮谷験『伯爵と三つの棺』(講談社)

 現時点における潮谷の最高作である。舞台を18世紀末のヨーロッパにしているのは、古城内で起きた殺人事件容疑者を限定する操作のためだが、後々この設定が展開にひねりを加える上で有効になってくる。犯人は同じ顔をした三つ子の誰かだ、という限定的な謎解きなのに読者の興味が途切れないように作者が施した仕掛けによって幕切れまで一気に読まされてしまう。キャラクター造形の豊かさも演出上不可欠で、小説のどこをとっても無駄な箇所がない。変幻自在のプロットで知られる作者がついに正攻法の犯人当て小説を書いた。実に感慨深い。

 期待の新鋭に票が集まりましたが、それ以外も若手作家が強かった印象があります。また、直木賞候補作にまさかの続篇登場、という驚きもありました。話題の尽きないミステリー界、そろそろ年末ランキングの話題も聞こえてきます。来月もお楽しみに。

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