本と小説が好きな読者ほど、深く鋭く胸に刺さる作品ーー高野史緒『ビブリオフォリア・ラプソディ』評
そしてラストの「本の泉 泉の本」は、四郎と友人の敬彦が、まるで迷宮のような古書店で古本を探す。四郎は、「ハンノキのある島」で、ちらちら言及されている四郎と同一人物であろう。とんでもない古本マニアらしい二人のやり取りや、四郎が次々と古本を“確保”していく様子が、実に楽しい。また、出てくる本のタイトルと作者名、簡単な作品紹介は、すべて作者の創作。それを読んでいるだけで、なぜこの本は実在しないのかと身悶えしてしまう。自分が知らない面白い本があると思えば、たとえ架空であっても欲しくなってしまうのだ。作者、古本マニアの気持ちを熟知している。
さらに個人的に感動したのが、四郎が所持しているはずの本を確保する場面の“何しろ帯が違う。帯が違えば別の本ではないか”という一文。そうなんだよ! 帯が違えば別の本なんだよ! いや、映画化などで本の帯が変わることがあるでしょう。そうなったら、つい古本で探しちゃうんだよ(さすがに新刊では買わない)。我が家の書庫に、帯違いで並んでいる同じ本が何冊あることか。この話は、古本マニアの一炊の夢。嬉しくて、どこか切ない名作である。
おっと、また自分語りになってしまった。とにかく本書は、本と小説の好きな人なら必読の一冊。大いに堪能し、読み終わった後は、本棚のいい場所に並べてほしい。