東雅夫 × 天野純希が語る、歴史小説×ゾンビの可能性 異色アンソロジー『歴屍物語集成 畏怖』対談

東雅夫 × 天野純希、歴史とゾンビ 対談

東「歴史+ホラーというのは、いい鉱脈」

東雅夫

――日本と西洋でのゾンビの受けとめ方の違いはどうですか。

担当:今回のアンソロジーはゾンビをあまり通っていない作家さんがほとんどで、天野さんがゾンビの参考書をリストにしてくれたんですけど、なかに小野不由美さんの『屍鬼』があって、あの作品はもうジャパニーズという感じ。

天野:日本の怪獣と西洋のモンスター、クリーチャーは微妙に違うじゃないですか。あれと同じで日本の方が精神的なものの比重が大きい。日本と海外のホラーでは出てくる血の量も違いますし、内面に訴えかけるものが日本の方が強い気がします。なんか湿度が違う。アメリカのゾンビ映画ってカラッとしているんですよ。

東:アメリカ人と日本人の考えるゾンビは、けっこう異質かもしれない。去年、風間賢二先生が大変喜んで訳した『ブッカケ・ゾンビ』(ジョー・ネッター)を某大新聞の書評でとりあげようとしたら「ちょっと書名がまずいのでほかのものにしてください」といわれました。いかにもエログロのB級でアメリカンな感じ。それに対し『歴屍物語集成』は一本筋が通っている。映画の話はしてきましたけど、天野さんは小説で衝撃を受けたゾンビものはなんですか。

天野:小説はそもそも数が多くないですが、マックス・ブルックスが書いた『ワールド・ウォーZ』の原作はすごく好きです。ホラーというより大河小説に近い。

担当:今回、作家さんたちにゾンビの教科書としてあげた『ゾンビサバイバルガイド』も、ブルックスです。ゾンビが実際に出てきたらどう戦うかを真面目に語っている方なんです。

東:天野さんはこれまで歴史ものを書いてきてホラーは……。

天野:今回が初です。

東:普通の歴史小説とホラーとして書く歴史小説では違いますか。

天野:読者がこういう視点で見ていて、ここからなにが出てきたらびっくりするだろうかなどと考えるのは、さほど変わらないですね。変えたのは、血の量を2倍増しにしたくらい。

――天野さんの「死霊の山」には切支丹への言及がありますが、最初の矢野さんの「有我」は元寇だから、海外の要素を本のところどころに入れようみたいな計算はあったんですか。

天野:いや、全然。ロメロ作品における黒人みたいな登場人物を出せないかと考えて、当時は少数派だった切支丹を持ってきました。ゾンビものってゾンビを書くだけでは駄目で、人間同士の葛藤や断絶を入れたい。比叡山でやるなら切支丹かなと。

担当:参考にしたものでは、けっこうロメロが大きかったでしょう。

天野:そうですね。どこか狭い建物に閉じこもらなければいけないといった“ゾンビあるある”。

東:閉塞の恐怖ですね。以前、雑誌「幽」で怪獣小説集を企画したんですが、作家の方々がかまえちゃって、結果的に怪獣そのものをあまり出さない感じになっちゃった。かえってホラー味は増したんですけど、いま一つ本格怪獣小説にはならなかったわけです。怪談雑誌だからそうしたのでしょうが、このアンソロジーは本格ゾンビ小説になっているのがよかった。みなさん、新しい視点からホラーをやっていて、しかも本当に読みやすいのが共通の特色。

天野:ちゃんと文章を書ける方ばかりを選んだので。この人たちに頼んでよかったと思います。まず小説としてしっかりしていないと、ゾンビの名にも傷がつきますから。ゾンビ全体がなめられるぞ、みたいな。

担当:事前に400字詰め50~60枚といっていた分量も、全員しっかり守ってくださった。

天野:アンソロジーを作る人の楽しさが、少しわかった気がします。

東:なかなか難しいですよね。私も雑誌の編集やアンソロジーを長くやってきたから実感するんですけど、うっかり頼んでそのまま行っちゃうと、これどうするんだって怖いことになる。競作集の場合、博打的なところがあるんです。

天野:今回は、こんなのがきちゃった、どうしよう、というのがなかった。

東:ホラーもこれからいろいろ展開を考えなければいけない。その点、歴史+ホラーというのは、いい鉱脈を探りあてたと思います。次の手も二の矢、三の矢とできるんじゃないか。

担当;もうワン・ゾンビいけますかね?

天野:いずれ歴史怪獣小説もやりたいです。

東:宮部みゆきさんが『荒神』でやられていましたけど、歴史怪獣ものは宝の山じゃないかな。

天野:『ゴジラ-1.0』も、武装解除されたという縛りがあったし歴史ものでしょう。

東:私は以前『怪獣文学大全』(1998年)というアンソロジーを作ったんですけど、著作権の関係などクリアしなければいけないことが多くて、なかなか再刊が実現しなかった。でも、ようやく来年出し直すことが決まりました。天野さんにも、ぜひ怪獣アンソロジーはやっていただきたい。それ以外だと、なにがやれますかね。エイリアン、UFO……。

担当:サメはやれますか?

天野:村上水軍VSサメ、ペリーVSサメ……。けっこう書けそう。

――元寇もやれますものね。

天野:壇ノ浦……。

東:島流し系もやれますよね。二の矢、三の矢はありそうです。期待しています。

■書籍情報
『歴屍物語集成 畏怖』
著者:天野純希、西條奈加、澤田瞳子、蝉谷めぐ実、矢野隆
価格:1870円
発売日:4月22日
出版社:中央公論新社

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