【書店危機】識者はどう見る? 経営評論家・坂口孝則氏に聞く、書店・出版社が今すべきこと
■紙の本を買ってもらう動機付けが必須
――今や電車の中でも、本を開いている人を見ることはごくわずかです。電子書籍が普及する中で、書店はますます大変だと思います。
坂口:電子書籍化の流れは、ずいぶん前から予期されていたことではあります。私が尊敬する竹熊健太郎さんの著作に、『マンガ原稿料はなぜ安いのか? 竹熊漫談』(イーストプレス/刊)という一冊があります。竹熊さんは、今はいいけれど、このままのやり方を続けていったら、日本の家庭には本を置くスペースがなくなる、特に長期連載漫画は書店でも家庭でも受け入れられなくなると予想していました。そこで、手塚治虫の初期作品のように、1~2巻くらいで素晴らしいクオリティの漫画を作るべきだと指摘しています。
――竹熊さんの指摘通りになっていますね。そんな現代において、紙の本を買ってもらうには様々な動機付けが必要ですね。
坂口:私が興味深いと思った事例は、アメリカの本で、最後のページがサイン欄になっているという事例があります。著者が、「私を街中で見つけてくれたら、この本に必ずサインをする」という特典を付けているのです。これはまさに、紙でなければできないことですし、本を買う理屈付けとして最高ですよね。
――非常に興味深いですね。
坂口:2000年代の半ば、百貨店や家電量販店で品物を確認してネットで注文する、いわゆるショールーミング化がおきました。現在、リアル書店でも同じことが起きています。そこで提案なのですが、バーコードのQRを読み込んだらその場で本が電子で買えて、売れたら書店にマージンが入るといった仕組みもできると思うんですよ。テクノロジーを駆使することで、書店の活性化させる方策はいくらでもあると思うんですよね。
■書店でしかできないこととは何か
――確かに、書店の販売システムは旧態依然としていて、最新のテクノロジーが取り入れられているかというと、微妙ですよね。このまま何も改革しなければ、書店はどうなっていくのでしょうか。
坂口:書店の数は減り続けるのでしょうし、中長期的に見ても、明るいニュースはないように思いますね。ただし、ある種の個性というか、色というか、それを発揮するような書店は残ると考えています。技術が進化して仮想空間の書店ができたとしたら、リアル書店にある、予想もしなかった本との偶然の出合いも代替できるようになるでしょう。そういった技術を超越した、独自のキュレーションができる書店じゃないと生き残りは難しいでしょうね。
――書店員の個性や感性がますます重要になりそうですよね。届いた新刊をただ並べるのではなく、書店員が独自の感性で本を選んで提案できる書店などは強そうです。
坂口:私は、AIやITの時代に人間ができることは、“ビール”と“土下座”だと思っています。“ビール”はお客さんと仲良くなること。“土下座”は万が一のときに心から謝罪すること。これからの時代、書店はキャラクタービジネスにならざるを得ないと思うんです。「うわ~、何だこの棚の本、狂気だな!」と思うような、書店員の趣味が発揮された書店は、それだけで面白いですよね。他にも、地元の作家が推薦した本を並べるとか、ナラティブ、コンテキストを発揮することが必要だと思います。
――おっしゃるとおりですね。
坂口:これだけインバウンドが日本を訪れているので、ある地方に行ったら必ず立ち寄らなければいけない、そんな書店があってもいいでしょう。堅苦しい郷土書ばかり紹介するのではなく、立ち寄ることに意味があるような、一種の物語を創り出すなどの工夫が必要だと思います。地元のアイドルが本を手売りする書店があっても、面白いですよね。
――書店に関する様々な提案、本当に勉強になります。ちなみに、坂口さんは書店に頻繁に行くそうですが、電子書籍があるのに、紙の本にこだわる理由は何があるのでしょうか。
坂口:私の主要な仕事のひとつが専門領域のコンサルティングなのですが、専門書の類は紙でしか手に入らない本が多いんですよ。専門書を除き、最近買った本でいうと、脚本術を説いた『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』(ジェシカ・ブロディ/著、島内哲朗/訳、フィルムアート社/刊)は、なぜか最初の巻だけ電子書籍になっていない(笑)。オリコンで連載の参考に買った『キリスト教シンボル事典』(ミシェル・フイエ/著、武藤剛史/訳、白水社/刊)は、キリスト教文化圏やキリスト教そのものを深く理解するうえで最適な本ですが、やはり電子書籍にはなっていません。
――専門書は紙が電子に対抗できる要素がありますね。最後に、坂口さんが通い詰める書店はどこなのか、教えていただけますか。
坂口:私がよく行くのは、日本橋丸善と新宿の紀伊國屋、あとはヴィレバンです(笑)。私の趣味のひとつが音楽なのですが、昔からヴィレバンには音楽目当てに通っています。あと、一般的な書店になかなか並ばない漫画があるのもいいですよね。ちなみに私は、電子書籍になっている漫画は基本的に電子書籍で買うんですが、あまりに“絶望的な感動”を覚えた作品は紙で買うようにしています。最近のタイトルだと『チェンソーマン』。藤本タツキさんが描き出す世界観がたまりませんし、手元に置いておきたくなるんですよ。
■坂口孝則プロフィール
経営評論家、調達・購買業務コンサルタント、講演家。 セミナー会社経営、カウンセリングラボオーナー。大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買・原価企画・仕入れ業務に従事。現在は未来調達研究所株式会社取締役。これまで誰もやらなかった、調達・購買・資材業務のコンサルティングと、仕入れ観点から商売とビジネスモデルの解説等を実施。2005年から、「ほんとうの調達・購買・資材理論」(仕入れ・調達・購買・資材担当者が集まる全国規模勉強会)を主催しており、全国800名をこえるバイヤーが参加。当領域では日本で最大規模。最新の理論を、現場で実践し展開することが信条。
趣味:メタルのライブに行くこと
【ルポ書店危機】地方書店の店長に聞く、町の本屋のリアル 現状から浮かんできた日本社会の縮図
■書店は存続するのか、それとも消滅してしまうのか? 現在書店が街からなくなりつつある。2003年に約2万店あった…