大手出版社のECサイト事業、終了するサービスも……ファンを囲い込む雑誌ビジネスの現在地

出版社のECサイト事業の現在地

 NHK出版が、3月末でECサイト事業を終了させることになった。同社はNHKの子会社で、「きょうの料理」や「すてきにハンドメイド」といった番組のテキストや関連商品を販売。今回の事業終了は、事業がコスト的に見合わなくなり、本業である出版事業に資源を集中させるためだという。

 「雑誌が売れない」と言われて久しい昨今、出版社にとってECサイト事業は頼みの綱のひとつだった。大手出版社が運営しているサイトでは出版物を売るだけではなく、自社で刊行している書籍や雑誌の関連グッズ、また食品や衣料品、雑貨なども販売しており、取り扱う商品の幅は多岐にわたる。

 雑誌というメディアの特徴のひとつが、雑誌ごとに個性があること、そしてそれを読者が自分の好みで選べることである。総合誌やファッション誌、コミック誌や各種専門誌といった各ジャンル内にそれぞれカラーの異なる雑誌が存在しており、読者はそれらの中から自分の好きなものを選んで読む。気に入れば定期的に購入するし、雑誌内の連載をまとめた単行本などにも手を伸ばす……という形が、基本的な雑誌のビジネスモデルである。

 こういったメディアであることから、雑誌は読者を囲い込み、「ファン」としての読者を育てることができるという特性を持つ。購読する時間が伸びるほど愛着も湧き、「〇〇の読者」という自意識を持ちやすい。今もたまにネットで見る「コロコロ派VSボンボン派」論争や、『Olive』読者を表す「オリーブ少女」という言い回し、はたまた雑誌『LEON』が読者の目指すべきモデルケースとして提唱した「ちょいワルおやじ」概念など、自然発生的なものや雑誌側が仕掛けたものも含め、特定の雑誌の読者が一種のトライブとして呼称された例は多い。

 つまり雑誌の機能のひとつが、(時には特定の呼称を与えつつ)読者を「ファン」として囲い込むことなのである。この機能は、ECサイトと相性がいい。雑誌を信用しているファンであれば、誌面で推されている物品を買う確率は高いし、その販路を雑誌側がWeb上で用意しておくのは商売として自然である。特に近年の「お取り寄せ」的な需要については雑誌による情報の保管が行われることとなり、いわゆる「情報を食う」部分を誌面やサイト内の説明が担うことで商品に関する説得力が増すことになった。

 さらには「出版社による通販やECサイト運営を支援する専門企業」まで出現している。例えば株式会社イデアは、文藝春秋や新潮社といった老舗出版社と提携し、「文春マルシェ」や「新潮ショップ」といったECサイトを運営。この株式会社イデアは、雑誌のオンライン書店「Fujisan.co.jp」を運営する株式会社富士山マガジンサービスと、メディアコマースやメディア運営を手掛ける株式会社イードが共同で2019年に設立した企業である。この時点で「出版社によるECサイト運営」だけに注力する企業が存在できるほど、雑誌が囲い込んだ読者を基盤にした事業に注力するのは雑誌部数低迷の中では必然のように起きてきたことがあるだろう。

 このような理由から雑誌とECサイトの相性はいい……というのが定説だったが、近年は状況が変化しているようだ。前述のNHK出版によるECサイト事業の終了や、「文春マルシェ」のサービス終了など、大手ECサイトの閉鎖や事業撤退のニュースがちらほらと発表されているのである。

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