出版界の未来、ひとり出版社や地方拠点の小規模出版社が増加…… 独立系書店と良好な関係を構築

出版界の未来、小規模出版社

  大手出版社には企画できない、独創的かつ個性的な本を出版する小規模な出版社が存在感を示している。いわゆる“ひとり出版社”である。小規模と侮るなかれ。代表者の個性が存分に発揮された本づくりが共感を呼び、ベストセラーも次々に生まれているのだ。

  2022年から2023年にかけて大型書店のランキングを騒がせたのが、日本最古の歌集『万葉集』を現代的な言葉に置き換えた『愛するよりも愛されたい』『太子の少年』である。香川県高松市にある作家の佐々木良氏が立ち上げた出版社「万葉社」が刊行し、シリーズ累計発行部数が23万部を突破するベストセラーになった。

  元朝日新聞の記者・堀江昌史氏が立ち上げた「能美舎」は、歴史的な街並みが残る滋賀県長浜市に拠点を置く出版社だ。大津市の男子中学生が琵琶湖の魚を研究してまとめた本『はじめてのびわこの魚』や、長浜市が舞台の井上靖の小説を復刻した『星と祭』など、地域に根差した本を相次いで刊行している。

  東京にある「点滅社」が刊行した『鬱の本』は、“ふたり出版社”発のベストセラーだ。「鬱」に関する小説家やミュージシャンなど84人の著名人のエッセイをまとめた一冊で、紀伊國屋書店新宿本店など都心の大型書店でも評判となり、重版が決まった。

  点滅社の代表の一人、屋良朝哉氏はリアルサウンドブックのインタビューに、「自分と同じような鬱屈とした気持ちで生きている人に寄り添いたい思いで、この本を作りました」と語っている。屋良氏は『鬱の本』を編集するにあたり、自身を助けてくれた人、支えになってくれた人に原稿を依頼した。そうした思いはしっかりと読者に届いたようだ。

  さらに、こうした出版社が出す本は、近年増加している店主の個性が発揮された小規模な書店との相性が抜群にいいようである。静岡県沼津市にある「リバーブックス」は、地元出身の店主が古民家を改装して開店した書店だが、ここでも『鬱の本』の売れ行きは好調という。

  ひとり出版社は自宅の一室を倉庫代わりにしたり、重版が決まれば一人で配送依頼にいく必要があったりと、苦労も多いようである。しかし、個人が作り上げた本が全国の読者に届いている事実を知ると、改めて本の力は凄いものだと感じてしまう。

  また、ひとり出版社は地方に拠点をおく例が多いが、少人数で立ち上げた地方発の出版社にも注目したい。例えば、兵庫県明石市に本社をおく「ライツ社」は、児童書で初めて2024年本屋大賞にノミネートされた知念実希人の『放課後ミステリクラブ 1 金魚の泳ぐプール事件』を刊行している。

  ちなみに、西日本の出版社の書籍が本屋大賞にノミネートされたのも初めてのことで、歴史的な出来事といえるだろう。ひとり出版社や地方発の出版社がベストセラーを席巻し、出版界の名だたる賞を騒がせる、そんな時代が訪れるかもしれない。

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