「ジョジョ」「エガちゃん」「異世界」「宇宙」……旅行ガイド本が好調、理由はコロナ禍を経たユニークな企画力

ユニークな企画力、旅行ガイド本が好調

 3年半にも及んだコロナ騒動で大きなダメージを受けた筆頭といえば、旅行業界であろう。そして、人々が旅行を自粛したため、急激に売れなくなったのが旅行ガイド本だ。特にコロナに世界中が振り回されていた2020年の売上の減少は凄まじかったようである。記者の知り合いの書店では、旅行ガイド本の売上が前年の5分の1以下に落ち込んだと言っていた。

 そもそも、旅行ガイド本はインターネットの影響を受け、各社とも紙媒体の売上は減少が続いていたとされる。コロナ騒動の長期化とともに、海外旅行も難しくなり、旅行ガイド本の需要はこのまま消滅するかのように思えた……のだが、実際はそうならなかった。むしろ、各社とも編集部の創意工夫によって、新たなニーズの発掘に成功したのである。

 その口火を切ったのは、『地球の歩き方』である。2022年2月、オカルト雑誌「ムー」とコラボした『地球の歩き方 ムー -異世界(パラレルワールド)の歩き方-』を発刊し、その意外性もあって大ヒット。発売からわずか3週間で重版が続き、10万部を突破する大ベストセラーになった。

 どんな奇抜な内容なのかと思って手に取ると、イースター島やエジプトのピラミッドなど、世界の観光名所は実は「ムー」的なスポットが多いこともあって、まさに『地球の歩き方』に相応しい充実した内容であった。まさに、人々の知的好奇心を刺激した一冊だったといえる。2022年当時はまだコロナ騒動が長引き、海外旅行にも面倒な手続きが必要だった時期。本書を読んで、旅行欲が高まった人は多かったようだ。

 同年の7月には『ジョジョの奇妙な冒険』とコラボした『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』を発刊。第4部に登場する宮城県仙台市がモデルになった杜王町など、第1部~第8部の舞台となった世界中の都市を紹介した誌面になっている。こうしたコラボ本は、それまで旅行ガイド本を手に取らなかった新たな層を開拓することにも繋がった。

 老舗の『るるぶ』も負けてはいない。2021年、『ONE PIECE』とコラボした『るるぶ ONE PIECE』を発刊し、2022年には『るるぶ 原神』、2023年には『るるぶ ラブライブ!サンシャイン!!』などヒットを連発。『るるぶ 原神』は、『るるぶ』史上初となるゲームの中を旅する観光ガイドとなり、ファンブックのような体裁かと思いきや、誌面のデザインは『るるぶ』そのものである。近年刊行された『るるぶ』の中でも記録的なベストセラーになっているという。

るるぶラブライブ!サンシャイン!!
『るるぶラブライブ!サンシャイン!!』
(6月30日発売/JTBパブリッシング)

 また、『ラブライブ!サンシャイン!!』は、作品の舞台になった沼津周辺を網羅。ファンにはおなじみの「つじ写真館」や「安田屋旅館」などの聖地が、従来の『るるぶ』のフォーマットでしっかりと紹介され、表紙の絵もキャラクターデザイナーの室田雄平が監修している。『るるぶ』の作りに忠実ながら、編集者のこだわりを感じさせる徹底的な作り込みが受け、聖地巡礼ファン必携の一冊となった。

 『るるぶ』はアニメやゲームだけにとどまらず、YouTuberの東海オンエアとコラボした『るるぶ 東海オンエア』、YouTube「エガちゃんねる」でブレイクした江頭2:50とコラボした『るるぶ エガちゃんねる』を刊行。魅力的な旅行ガイド本を次々に生み出している。

 こうした旅行ガイド本に共通する点を見てみよう。まず、表紙や誌面のレイアウトが、従来の旅行ガイド本のスタイルを踏襲し、忠実である点だ。『地球の歩き方』も『るるぶ』もアニメコラボだからと言って、レイアウトを極端に変更するようなことはしていない。だからこそ、老舗ならではのブランド力を発揮できているし、ファンには意外性のあるコラボに映るわけだ。

 コロナ騒動はダメージも大きかったものの、旅行ガイド本がもつブランド力を実感できた点において、出版社にとっても貴重な機会だったのではないだろうか。何より、どの本も各社の編集力が光る一冊となっているのが素晴らしい。良い本を作れば読者は受け入れてくれるし、新しいファンがつくことを、体現してくれたといえよう。最近では、『るるぶ』は宇宙をテーマしたガイド本を発売。『地球の歩き方』は2024年1月には『宇宙兄弟』をテーマにした本を刊行予定と、さらにガイド本は壮大なスケールとなっている。今後も旅行ガイドのユニークな「企画」には注目していきたい。

 

 

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