新連載:解読『ジョジョの奇妙な冒険』 第一回「“ジョジョ”という名の時代を越えたヒーローたちの誕生」

“ジョジョ”という名のヒーローたちの誕生

正義は悪との対比でしか表現できない

 3つ目の要因は、強烈なインパクトを持った悪役の創造、ということになるだろう。ディオ・ブランドー、カーズ、DIO、吉良吉影、ディアボロ、プッチ神父、ヴァレンタイン大統領、透龍。本作に出てくる悪役たちのなんと魅力的なことか。

 改めていうまでもなく、「正義」と「悪」の概念は常に表裏一体の関係にあり、とりわけ前者は、後者との対比でしか表現できないといってもいい。つまり、漫画に限らずあらゆる物語において、まずは強烈な悪役を設定しなければ、同等(もしくはそれ以上)の魅力を持ったヒーローの活躍は描きようがない、というわけだ。

 じっさい、第1部の主人公、ジョナサン・ジョースターなどは、宿敵ディオ・ブランドーとのキアロスクーロ(明暗対比)なしに、その魅力は伝わらないといっても過言ではあるまい。

 また、第2部以降の歴代の「ジョジョ」たちが、多かれ少なかれ「悪」や「不良」、あるいは「アウトロー」の要素が組み込まれた存在であることも無視はできないだろう(その最たる存在が、第5部の主人公、ジョルノ・ジョバァーナと、第9部の主人公、ジョディオ・ジョースターだ)。

 これは明らかに、荒木が志向している主人公像が、清廉潔白な正義の味方ではなく、善と悪の両義性を秘めたある種のダークヒーローであるということの表われでもある(そもそも彼の初連載作の主人公も「魔少年」という設定であった)。

 そう、善と悪の境界線上にいるトリックスターが、自らの“正義”を貫き、世界に害をなす恐ろしい敵と対峙する。誤解を恐れずにいわせていただければ、それが、第2部以降の『ジョジョの奇妙な冒険』なのだと私は思っている。

 ところで、あなたが初めて出会ったのは、どの「ジョジョ」だろうか。ジョナサン・ジョースター、ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、東方仗助、ジョルノ・ジョバァーナ、空条徐倫、ジョニィ・ジョースター、東方定助、そして、ジョディオ・ジョースター。いつの時代に生まれても、必ず同世代の「ジョジョ」がいる。そんな漫画は本作をおいて他にはないだろう。

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