ジョジョ第9部『ザ・ジョジョランズ』の主人公は善悪を超えた存在に? 第5部 ジョルノ・ジョバーナとの共通点

『ザ・ジョジョランズ』岸辺露伴登場の意味

 荒木飛呂彦の漫画『ジョジョの奇妙な冒険 Part9 The JOJOLands』(集英社、以下『ザ・ジョジョランズ』)の第1巻が刊行された。物語の舞台は、ハワイ諸島のオアフ島。主人公は15歳の少年ジョディオ・ジョースターで、彼が「大富豪になっていく物語」だと、ジョディオ自身によって初めに語られる。

 『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社、以下『ジョジョ』)は1986年末に週刊少年ジャンプで連載をスタート。2005年から月刊ウルトラジャンプに移籍し、現在も連載が続いている大長編漫画だ。

 物語の主人公は“ジョジョ”と呼ばれる若者で、1部ごとに時代と主人公が移り変わっていく大河ドラマとなっている。何より最大の魅力は第3部から登場する、超能力を具現化した“スタンド”の存在だろう。第3部以降はスタンドを操るスタンド使い同士の異能力バトルが、物語の見せ場となっており、第9部となる今回の『ザ・ジョジョランズ』にも、スタンドが登場する。

※以下、ネタバレあり。

 ジョディオは、犯罪組織を束ねるメリル・メイ・チーの依頼で、兄のドラゴナ・ジョースター、パコ・ラブランテス、ウサギ・アロハオエの4人で、豪華な別荘で観光休暇中の日本人・岸辺露伴から、600万ドルの天然ダイヤモンドを盗み出すことになる。

 4人は全員スタンド使いで、ジョディオは「11月の雨」(ノーヴェンバー・レイン)という重力を持つ雨を降らせて、敵を攻撃するスタンドの持ち主だ。

 一方、ドラゴナは触ったものの位置を自由に移動させて鍵のかかった扉を解錠する「スムース・オペレイターズ」、パコは筋肉を自由自在に操りモノを盗む「THEハッスル」、ウサギは自分意外の誰かがほしいと願うモノに変身させて監視カメラの偽物を作り出す「THE MATTE KUDASAI」(ザ・マッテクダサイ)を操るスタンド使いだ。

 4人がスタンド能力を駆使して盗みに入る展開は『オーシャンズ11』のような犯罪スペシャリストがチームを組んで盗みをおこなうケイパー映画を思わせるが、ドラッグの売人として働くジョディオを筆頭に、4人全員が小悪党なので、近年問題になっている特殊詐欺の闇バイトに手を染める若者を見ているようだ。

 第1巻でジョディオは「仕組み」という言葉を繰り返し使う。「仕組み」という言葉には、犯罪に手を染めることと引き換えに母親たち家族の社会的安全が守られているジョディオたちを取り囲むしがらみや、見えない力「スタンド」のことを示しているように見えるが、『ジョジョ』シリーズが描き続けてきた人間の役割は決まっているという「運命論」を言い換えたものにも聞こえる。

 ジョディオたちの立場や「仕組み」というテーマは、第5部「黄金の風」を思わせる。第5部はイタリアを舞台にジョルノ・ジョバーナがギャング・スターを目指す物語で、巨大ギャング組織「パッショーネ」に入団したジョルノが仲間と共に、組織内の権力闘争に巻き込まれていく様子が、スタンドバトルを通して描かれた。

 『ジョジョ』シリーズは、第6部のラストで世界が一巡し、第7部以降の物語は、第6部までの『ジョジョ』に登場したキャラクターの生まれ変わりだと思われる人物が多数登場する一種のパラレルワールドとなっている。例えば、第8部では、第4部の舞台だった杜王町が再び物語の舞台となり、主人公の名前は東方定助という第4部の主人公・東方仗助を思わせる名前となっていた。

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