JOJO荒木飛呂彦原作『岸辺露伴は動かない』の魅力 「スタンド」を切り捨てた英断と“相棒”の存在
荒木飛呂彦原作、高橋一生主演の実写ドラマ『岸辺露伴は動かない』の第3期(第7話・第8話)が、本日(12月26日)と明日(27日)の夜、NHKにて放送される。
岸辺露伴とは、荒木の代表作『ジョジョの奇妙な冒険』第四部に登場するサブキャラクターの1人で、職業は漫画家。「ヘブンズ・ドアー」という異能(スタンド)で人間や生物を「本」に変え、その記憶を読んだり行動を操ったりすることができる。また、漫画の「取材」のためには危険を顧みない性格をしているのだが、その旺盛な好奇心が祟って、常に恐ろしい怪奇現象や妖怪めいた存在を引き寄せることになる……。
『岸辺露伴は動かない』は、そんな彼を主人公にした短編のシリーズ(スピンオフ)であり、荒木による漫画作品だけでなく、北國ばらっどほか数名の作家によるオリジナルストーリーを収録したノベライズ(短編小説集)も現在までに3冊刊行されている。
今回、ドラマ化されたのは、「ホットサマー・マーサ」と「ジャンケン小僧」の2作。前者は今年の春に出た「ジョジョマガジン 2022 SPRING」に掲載された比較的新しい作品(単行本未収録)であり、後者は、「ジョジョ」本編のとあるエピソードを原作としている。
原作ファンにはおなじみの「スタンド」を切り捨てた英断
ちなみに実写ドラマ版でも岸部露伴は「ヘブンズ・ドアー」を使うのだが、その異能(超能力)は、「ジョジョ」ファンにはおなじみの「スタンド」ではなく、「ギフト」といういい方に改められている。また、原作では露伴が「ヘブンズ・ドアー」を使う際、ペンを持った少年のようなヴィジョンが出現するのだが、ドラマ版ではその種のヴィジョンは出てこない。
この(ある意味では大胆ともいえる)改変には賛否両論あるかもしれないが、個人的には良かったのではないかと思っている。というのは、たしかに「スタンド」という設定は、(「波紋」とともに)「ジョジョ」シリーズを支えている大きな魅力の1つではあるのだが、ふだん漫画を読み慣れていない人がいきなりその特性を理解するのは、かなり難しいものがあると思われるからだ。
じっさい、原作を読んだことのある人でさえ、「スタンド」を守護霊か何かと勘違いしている場合が少なくないのではないだろうか。だが、(きちんと原作を読めばわかるが)すべての“スタンド使い”が人型のヴィジョンを出現させるわけでもなく、つまり、「スタンド」とはあくまでも「異能」(あるいは形象化された“力”)のことなのだ。
だから今回、その万人にはわかりにくい設定を潔く切り捨てたというのは、(そもそもドラマ版『岸辺露伴は動かない』は、「ジョジョ」本編とは関係のない物語として作られているということもあるだろうが)、NHKで幅広い層に向けて放送するドラマとしては、英断であったといえるだろう。
“相棒”の存在が、物語を面白くする
そしてもうひとつ、個人的にドラマ版で注目しているのが、あるキャラクターの存在だ。
そのキャラクターとは、岸辺露伴の担当編集者・泉京香である。演じているのは飯豊まりえだが、そのコロコロ変わる表情が実に可愛い。また、怪異を怪異とも思わない鈍感さも愛らしい。
ちなみにこの泉という編集者、原作では1度出たきりのキャラクターだったのだが(「富豪村」の回に登場)、実写ドラマ版制作後に描かれた「ホットサマー・マーサ」と「ドリッピング画法」の回にて再登場。これはもしかしたら、原作者である荒木が飯豊の好演を見て、漫画家としてなんらかの刺激を受けたということの証ではないだろうか(ただし、単行本1巻収録の自作解説で、泉について、「ムカつきながら描」いたが「キャラとしては大好きで傑作の出来」とも書いているので、もともと作者のお気に入りの1人ではあったのだろうが)。
いずれにせよ、ドラマ版では、「動かない」岸辺露伴を動かしているのは、たいていの場合、この泉京香なのだ。もっとわかりやすいいい方をさせてもらえれば、トリッキーなボケに対する絶妙なツッコミ――すなわち、彼女の物怖じしない性格と愛すべき鈍感さが、岸辺露伴の奇人ぶり(あるいは高橋一生の怪演)をより魅力的なものにしているのだともいえるだろう。
そう、かの名探偵シャーロック・ホームズの隣には常にワトスン博士がいたように、岸辺露伴には泉京香という名(迷?)編集者が欠かせないのである。今回のドラマ版第3期でも、きっと彼女の活躍が物語に花を添えてくれることだろう。
■放送情報
『岸辺露伴は動かない』NHK総合にて放送
第7話:12月26日(月)22:00:〜22:54放送
第8話:12月27日(火)22:00:〜22:54放送
出演:高橋一生、飯豊まりえ、古川琴音(第7話ゲスト)、柊木陽太(第8話ゲスト)
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない』
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔
人物デザイン監修:柘植伊佐夫
演出:渡辺一貴
制作統括:斎藤直子、土橋圭介、ハン サングン
制 作:NHK エンタープライズ
制作・著作:NHK、ピクス